2023年12月1日金曜日

メルケルさんの遺産

前ドイツ首相のアンゲラ・メルケルは、1990/10の東西ドイツの統一の後、12月に行われた新生ドイツの初めての総選挙で初当選
選挙区はバルト海に面した風光明媚な過疎地で、それまで氏の知らない土地だった
この田舎町での選挙の詳細については、ラルフ・ゲオルク・ロイトとギュンター・ラッハマン共著『アンゲラ・Mの初期の人生(Das erste Leben der Angela M) 』に詳しいが
ここに記されていることが本当なら、若きメルケル氏は、東独の男たちの画策した大胆なトリックによって、涼しい顔で政界デビューを果たした可能性が高い

2005年、ドイツ首相にまで上り詰めた後の氏の政治は、最初のうちこそ慎重だったものの、権力の伸長とともに独断的に
時には法律さえ無視
それらのうち後々までの影響が大きかったものを挙げるなら、まず脱原発の前倒し

ドイツでは、原子力法(正式名:原子力の平和利用とその危険の防御に関する法律)の19条で
危険が大きいと判断した原発を一時的、あるいは恒久的に停止する権限が、国の原発監査機関に与えられている
メルケル氏は福島第一原発の事故の3日後
「日本ほど科学の発達した国でさえ原発事故が起こったのだから、ドイツで起こっても不思議ではない」
この原子力法を盾に、ドイツのすべての原発を22年で停止するよう持ち込んだ
ただ地震も津波もないドイツには、原発を稼働させられないほどの危険はないとした電力会社らが所有権を侵害されたとしてドイツ政府を提訴
16年になって憲法裁判所(最高裁に相当)は、脱原発の決定は違憲ではなかったとしながらも
一方で電力会社の言い分も認め、国に電力会社への賠償を命じた
変な判決?
その結果21年にようやく示談がまとまり、Eon、RWE、EnBW、Vattenfallの4社が
合計€24億2400万ユーロの賠償を国から勝ち取った
国の敗北ではあるが、これは税金なので実際の敗者は国民

その次の大きな“疑問符”は2015/9月に始まった中東難民の受け入れ
脱原発の前倒しは一応国会を通っているが
こちらはそれもないまま、メルケル首相がオーストリアとの国境を開き2015年と2016年で100万人以上の難民がドイツに
これはEUの難民規定であるダブリン協定にも、EU内での通行について定めるシェンゲン協定にも抵触
2018/5AfD(ドイツのための選択肢)が最高裁に訴えたが、同年12月に訴えは却下されている
ちなみに、この時の政権はCDU/CSUと社民党の連立であったため、AfD以外に実質的な野党はいなかった
メルケル氏の権力の膨張が難なく容認された理由は?だが
無理を通すときに氏が必ず使ったのが
「他に選択肢がない」という言葉
13年にできたAfDが、党名を ドイツのための選択肢 と定めたのは、これに対する抗議の意味があった
メルケル首相の暴走が佳境に入ったのは2020/2、旧東独のチューリンゲン州の州議会選挙のあと
新しい議会で州首相に選出されたのは自民党のケムリッヒ氏だったが、それを知ったメルケル首相は遊説先の南アから
「この選挙はやり直さなければならない」
「ケムリッヒ氏が州首相になれたのは、自民党とCDUの票だけでなく、AfD議員の票にも助けられたから」
メルケル氏の理屈では、AfDの支持を受けることは民主主義に反する?

・・・AfDの支持者も・・・

驚くべきことにメルケル氏のその一言で、本当に選挙結果は無効とされた
そして法的には毀損なく州首相に選出されたケムリッヒ氏は1ヵ月で辞任
左派党(東独の独裁党の流れを引く極左と言われている党)が過半数割れのまま政権に就いた
その時点では、早々に選挙をやり直すとされたがその後
現在まで3年と9ヵ月、再選挙の話は2度と持ち上がらなかった

現職の首相がここまではっきり法に反した指示を出したにもかかわらず
他の政治家や主要メディアは沈黙
AfDは黙ってはいなかったがメディアが無視したので、国民はこの違法行為を違法と認識せず、すぐに忘れてしまった
AfDはこれも憲法裁判所に訴えたが

連邦憲法擁護庁(国内向けの諜報機関)の前長官
ドイツの主要メディアのジャーナリストは大多数が緑の党と社民党のシンパ
それとこれとは別の話
彼らがAfDを潰すためならどんな手段も認められると思っているとすれば、ドイツの民主主義にはかなりひびが入っているということ

16年間続いたメルケル政権では、少なくとも後半の8年間
実質的にAfD以外には野党がいなかった
社民党はCDUと連立を組んでいたので与党だったし、緑の党は野にいながらも思想においてはメルケル首相と同じ
それどころか氏の影響力は、司法にまで及んでいた?

2021/12メルケル政治を引き継いだショルツ首相
メルケル政権で財相として権力の一角を担っていた
ようやく待望の政権を手にした時、自分もメルケル首相と同じことができると勘違い
2023/11/15憲法裁判所が、ドイツ政府が現行の予算に組み込んでいるお金のうち€600億が違憲であるという判決を下した
裁判長
「これにより『気候とトランスフォーメーション基金』のために用意されていた資金のうち、€600億が遡及的に減額される」
つまり、そのお金は使うことはできない
訴えたのは野党のCDU/CSU(キリスト教民主/社会同盟)
その夜、リントナー財相(自民党)は、計画されているものの、まだ正式に確定していないすべての予算を直ちに凍結
こうして政府は窮地に

ドイツでは憲法109条で、国も州も、歳出が歳入を超えてはいけないと決まっており
さらに2009年には、2016年以降の新規借入はGDPの0.35%を超えてはならないという法律もできた
これは借金ブレーキと呼ばれ、ドイツ政府は厳格に守ることが義務付けられている
例外として債務超過の許されるのは、天災、戦争などの非常事態の場合
その場合は議会の承認を得て、借金ブレーキを緩めることができる
ただし、そのお金を後年に回したり、他の目的に転用することは固く禁じられている
ドイツ政府はメルケル政権の時にコロナを非常事態と規定し、膨大なお金を準備した
ところが今、そのお金が€600億も余っており、現政府はそれを素知らぬ顔で 気候とトランスフォーメーション基金に回していた
それをCDU/CSUが憲法裁判所に訴えた
この訴えが認められれば、住宅の断熱や暖房の交換のための補助金、電気代を抑えるための補助金、EV購入の際の補助金、水素の開発に対する補助金、脱炭素を進めている企業に対する補助金、企業誘致のための補助金など
政府が進めようとしていた政策などが足りなくなる

世紀のバラマキ政策の主導者であるハーベック経済・気候保護相
今年の8月それについて問われ
「この訴えが通ったなら、とても、とても、とても酷いことになる」
「お金が消えたからといって、『そうですか』と必要な政策を止めるわけにはいかない」
とはいえ政府にもハーベック氏にも代替案が全くなかった
なぜ彼らは、それが通るのに自信を持っていたのか?
実は、メルケル氏が首相在任中だった2021/6/30
メルケル氏が閣僚と憲法裁判所の判事らを首相官邸に招いて晩餐会を催したことがあった
7月から議会が夏休みに入る直前
9月には総選挙で、そこでCDUが勝っても負けても、メルケル氏の引退はすでに決まっていた
つまりこの日、メルケル氏が権力を行使できるほぼ最後の機会
政府閣僚と憲法裁判所が一堂に会することは初めてではなかったというが
この時ばかりは癒着を指摘する声が、珍しく複数のメディアから上がった
なぜなら、この時期、憲法裁判所では、政府、およびメルケル氏個人が訴えられていた裁判が複数進行中という極めて微妙なタイミング
憲法裁判所のシュテファン・ハーバート長官は30年来のCDUの党員
メルケル首相とは親称で呼び合う仲
ディ・ヴェルト紙
長官に就任する以前の氏のことを、CDU党内の一番忠実なメルケルの兵隊と
そんなわけで、この会合の後も批判は止まず

自民党のヴォルフガング・クビキ副党首(当時)
「政府と憲法裁判所の関係は慎重であるべきなのに、メルケルが首相になって以来、政府は自分たちに危険が及ぶと、法治国家の規律を平気で、しかも何度も破るということを繰り返してきた」

ベルリンの弁護士、ニコ・ヘアティング氏
当時、コロナの特別金などですでに問題になっていた借金ブレーキに関する審議での、ハーバート長官の忌避申立てをした
これは、特定の案件で公平な判定ができないと懸念される裁判官を
その裁判から外すための申し立て
ドイツ司法界の頂点にいる判事にとって、これほど不名誉なことはない
(その申し立ての結果であったのかどうかはわからないが、今回の衝撃判決を出したのは、第2法廷のドーリス・ケーニヒ裁判長だった)
メルケル氏は憲法裁判所と良好な関係を保っており、おそらくメルケル氏にとっては、憲法裁判所の判決は制御できるもの?
だから閣僚としてそこにいたショルツ氏にすれば、憲法裁判所が自分たちに“害を及ぼす”など想定外
実際問題として€600億の凍結は、社会に取り返しのつかないほどの打撃を与える
その事情が考慮され、判決はかなり骨抜きになるはずだとたかを括っていた?
しかし、これはどう考えても行き過ぎだった
ケーニヒ裁判長、社民党が推薦した判事であったから、ショルツ氏にとってこの判決は二重のショック
あるいは、ショルツ首相にメルケル前首相ほどの“実力”がなく
憲法裁判所を味方につけることができかっただけ?

いずれにせよ€600億が消えてしまえば、補助金を見込んで投資計画を立てていた企業はドミノ式に行き詰まり
そうでなくても落ち込んでいるドイツ経済に壊滅的な打撃を与える?
それを、どうにかするには時間が限られている
今年中に来年の予算を立て、それを通すことができるかどうか?
手っ取り早いのは非常事態を宣言し、借金ブレーキを外すこと
しかし憲法裁判所ははたしてそれを許してくれるのか?

2023/11/28国会で繰り広げられた一般討論は激しいものに
しかしショルツ首相はいつも通り顔色ひとつ変えず、自分たちの不正には一切触れず、国民に謝罪することもなく
まるで従来の課題に憲法裁判所により新たな課題が付け加えられたというような口ぶり

社民党党派グループの長であるロルフ・ミュッツェニヒ氏
「憲法裁判所の判決は国民を不安にさせる」
法治国家を何だと思っているのか?

ハーベック経済・気候保護相
「これでエネルギー価格が上がったら、文句はメルツ氏に言ってほしい」

自分たちの不正をここまで棚に上げられるとは、現在のドイツ政府は・・・
皆、心の中で「メルケルだってずっとやってきたことだ」
・・・

おそらく
ばら撒き政策が修正されることはなく、大急ぎで再び綱渡り的な金策が?
彼らの政策は、莫大な補助金なしでは何ひとつ成り立たない
お金が都合できたら同じ間違いが繰り返され、ドイツが次第に衰弱していく
なぜ、それを誰も指摘しないのか
一番情けないのはCDUのメルツ党首
社民党を激しく攻撃しながらも
次の連立相手には是非CDUをというアピールが
CDUがAfDとの連立を拒否している限り、与党になるには社民党に擦り寄るしかない

今回の想定外の完全勝訴のせいで、本当にドイツの景気が落ち込めば、困窮するCDUの州首相らからの突き上げも激しくなるはず
それも怖い
つまり彼も早晩、抵抗する振りをしながら、社民党が用意する新たな借金の提案に乗る?

そんな中、旗幟鮮明であったのが、AfDのアリス・ヴァイデル共同党首
「政府は€1兆ユーロもの税収がありながら、それでもお金が足りないのはおかしい」
無意味なグリーン政策と、カオスの難民援助、効果のないウクライナ支援で底なしにお金を使っているからだ
抜本的な修正のため解散選挙を要求
彼女が演壇に立っただけで、AfD以外の議員全員がそれを闇雲に忌避
いつもの通り
この図もすでに民主主義とは・・・

ドイツ政府には今、お金がなく、時間がなく、倫理もない
メルケル氏はこの政治の崩壊を・・・

・・・耳に心地よい言説でコトを進め
実際にコトを行うためにムリを通す
難民の圧力がドイツ社会を不安定にしてる
郷に入っては郷に従え
これ基本だと思うんだけど
これを弁えないと摩擦を生む
おかげで今

そういやメルケルさん
銭の為?に中国と・・・
今、マクロンさんも・・・
ただ中国がツブれたら
大混乱になるのも必至
頭がイタい

今日も~
ラショウモンカズラ/Meehania Urticifolia

4月はじめ
小さなツボミ
ゆっくり大きくなって4月終ころから開花

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