2022年10月3日月曜日

プディカウツボカズラ・・・地中の罠

ウツボカズラ
つる植物の彼らが空中にぶらさげる捕虫袋は、世界で最も形態的に複雑な葉のひとつと
彼らは、ときには花に似た誘引物質を発しながら落とし穴式に昆虫を騙し捕らえる
獲物となる昆虫はウツボカズラが根を下ろす土壌に欠乏しがちな栄養を多分に含んでいる
それを消化吸収して生長と繁殖に役立てる
地中に罠を張る新種のウツボカズラが発見された
プディカウツボカズラ(Nepenthes pudica)と名付けられたその種はボルネオ島(カリマンタン島)で発見された
ウツボカズラ科の種多様性の地理的な中心がまさにこのあたりで、インドネシア・ブルネイ・マレーシアの3国が相乗りするこの島一つに、知られているだけで40種のウツボカズラが自生
プディカウツボカズラは、そのボルネオ島のインドネシア領、標高1100~1300mの山地多雨林で見つかった
ここで実施された野外調査の最中、パラツキー大学のルボス・マエスキー(Ĺuboś Majeský)博士らは、あまり見慣れないウツボカズラを発見
その個体群は一見して、捕虫袋をまったく作っていないように見えた
しかしよく調べてみると、数は少ないものの伸び上がるツルにきちんと捕虫袋を着けているからウツボカズラには違いない
さらによく観ると、個体の根元あたりから少し変形したような捕虫袋が土から突き出していることもある
何かの拍子に埋まってしまっただけかもしれない?
当初、博士はそう考えた
ツルについた捕虫袋が少ないのだって偶発的な現象かも
ウツボカズラを育てた経験がある人ならば誰だってそう考える
栽培の現場では、明らかにスペースの足りない隙間に捕虫袋が成長し始めてしまうことも
手塩にかけたウツボカズラがまったく捕虫袋を作らないことも日常茶飯事

地上部を見るかぎりあまり壮観とはいえないにしても、博士らが見つけたウツボカズラが少し変わったものである可能性は十分に残されている
地下部のようすも確認したい
博士らは写真撮影のため個体の根元を覆っていたマット状のコケを剥(は)いだら
地下から顔を出したのはウツボカズラの捕虫袋だった
周囲の個体の根元を掘っても同様だった
完全な地中に捕虫袋が埋まっている

人類による昆虫採集の場面では、地中生活性の昆虫を捕らえるのに地中トラップとよばれる類の罠を設置することがある
このプディカウツボカズラは、それを人知れず実践してきた

プディカウツボカズラの特徴
本種は、地上部の葉では光合成を担う平らな部分を展開するものの、あまり捕虫袋を作らない
一方の地下部では地下茎を形成
そしてそれは地上に顔を出すことなく、一定間隔で葉を作りながら地中を伸び進む
葉といっても、こちらは光合成の役には立たない
光の届かない地中では葉緑体も発達せず、本来光合成に充てるべき平らな部分は、もやしのように白くて小さなまま
しかしその先には、地上部のそれに勝るとも劣らないサイズの捕虫袋が多数作られ
そこに十分なスペースがなくとも土壌を押しのけて袋を成長させる
地中にあっても、捕虫のしくみは相変わらずの落とし穴方式
袋の中に落ちた獲物は這い上がること叶わず消化液の中で息絶える
種小名のpudicaは”恥ずかしがり”を意味するラテン語に由

何種かのウツボカズラについては、散発的ながら落ち葉の下から捕虫袋が見つかることもある
これまで、それらは一貫して観察される性質ではなく、単なる偶然だと解釈されてきた
プディカウツボカズラの発見を皮切りに、そういった過去の報告の再調査が進むだろう
シャイなウツボカズラは、一種だけではないかもしれない

プディカウツボカズラの記載論文でもそうだが、最近は自生地の正確な座標が意図的に公開されないことがある
これは、貴重な個体群が盗掘者の餌食になるのを防ぐ意味合いがある
流通がまったくない現状、これだけ驚異的な特徴を備えたウツボカズラならば数万円の値をつけたとしても買い手には困らないかも
そして需要は盗掘のインセンティブを生む
プディカウツボカズラは消失が危ぶまれる環境に自生し、個体数は少なく、あまりにも限られた範囲でのみ見つかる
先述のマエスキー博士を含む論文の著者らは、IUCN(国際自然保護連合)レッドリストの基準に照らして絶滅寸前(Critically Endangered)に相当すると判断している
プディカウツボカズラの生態をもっと知りたければ、採集道具を携えてコタキナバル国際空港へ降り立つのではなく、専門家からの続報を待つべきだろう

地中の暗がりの中で、捕虫袋はいったいどのような獲物を待ち受けているのだろう
いくつかの捕虫袋から総計1785個体の生物を取り出し、入念に記録していった
ササラダニの仲間、いくらかの甲虫、そしてヒメアギトアリ属(Anochetus)のアリなど
地中や堆積した落ち葉の中を好むことがよく知られた生物が見つかった
主要な獲物は、シリアゲアリ属(Crematogaster)に属するとみられるアリの一種
この属は、地上部にのみ捕虫袋を作る他種のウツボカズラにとっても格好の獲物となる
プディカウツボカズラが誘引物質を発して積極的に獲物を誘き寄せているかどうかは?

博士らが調べた1785個体の中には分解されつつある獲物だけではなく
消化液をものともせずに捕虫袋の中に共生する生物も含まれる
他種のウツボカズラでは、カニ、カエル、コウモリなど、捕虫袋を住処にするさまざまな生物が見つかっている
プディカウツボカズラの地下捕虫袋では
消化液の中には多数のボウフラが見つかった
樹洞などの水たまりで生きるボウフラは珍しくない
しかしウツボカズラの消化液でしか発見されていない種だっている
プディカウツボカズラの場合、見つかったボウフラとどれほど強固な共生関係があるかは?
幼虫たるボウフラがそこにいるからには、地中の捕虫袋までわざわざ産卵にきた成虫の蚊がいるはず
貧弱な印象すらある蚊にそんなことは可能だろうか?

今日は~
アラゲクジャク/ Adiantum hispidulum
玉の周りからも生えてきた
ほぼ全周に行きそう
当然、下はムリだけど
あとは
植毛したツボゴケが覆ってくれれば・・・

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