2023年4月4日火曜日

住民主体の地熱発電所、年6億円の売電収益

地熱発電所は初期費用が億単位でかかること、地熱の適地のほとんどが温泉地の近くや国立公園にあり開発が進みにくいこと。また掘っても当たらないリスクが高く、大規模な投資ができる企業でないと参入しづらい・・・
出力電力の規模をおさえ、住民が主体となって地熱発電を始めた地域が
熊本県小国町西里の岳(たけ)の湯地区。温泉だけでなく、より深い地下に眠る熱資源を資源として活用できないかと、10年ほど前に住民がのり出した
地区の全30世帯が出資者となり合同会社わいた会を設立
発電所の運用を、ふるさと熱電と組んで2015年より地熱発電事業を開始
現在は年6億円の売電収益

地区では高齢化が進み、温泉宿も跡継ぎがいない状況が深刻化
まちの衰退を避けるために利用できるのは、この資源しかないと住民が始めたのが地熱発電
候補としていくつか業者があった中で、手を組んだ相手が、ふるさと熱電
一般的なデベロッパーは地権者から土地を買い上げて地下を掘削し、地熱蒸気が当たればその後の利益はすべて業者がもっていく
ふるさと熱電が提案したのは、ほかの事業者とはまったく違うしくみ
土地はずっと地元の人たちのもの
事業主体は、地区住民による組織わいた会で行う
専門性が必要な発電所の建設と運営面を、ふるさと熱電に委託する
年間約6億円の売電収入、その収益の2割がわいた会に入り、8割を業務委託費としてふるさと熱電に支払っている

月に一度、岳の湯地区の人たちは、わいた会の会議のために公民館に集まる
ふるさと熱電の担当者も参加し、地熱発電事業についての大事な決めごとがこの場で行われる

今でこそわいた会には全30戸が参加していますが、10年以上にわたって様々な難題を乗り越えてき
岳の湯地区における地熱発電構想は、国と大手デベロッパーによる国策として1990年代から何度も持ち上がった
ところが温泉資源の枯渇などを懸念した一部の住民
「温泉に影響が出たら取り返しがつかない」
現在のわいた会代表の後藤幸夫さんのお父さんは、その慎重派の一人だった

後藤さん
「うちの父はその当時村(岳の湯地区)の代表をしておったんです。慎重派といっても絶対反対だったわけではなくて、万が一温泉資源に影響が出たときの影響をきちんと考えて欲しいと。地区には温泉事業者も多いですから。ただ大手デベロッパーとはその取り決めがなされないまま、いつのまにか慎重派と賛成派が分かれてしまって」
地域での議論がまとまらぬまま意見が分かれ、700年に渡って盛り上げてきた岳の湯盆踊りも途絶えた

2002年、大手デベロッパーはついに計画を断念
地域に発電所はできず温泉が守られたという安堵感が生まれたわけでもなく、残ったのは対立の傷跡だけ

それから約10年後、世代交代も進み再び地熱を活用しよう、という意見が
後藤さん
「まずは26世帯がわいた会をつくって、発電事業の計画を立てました。ほかにもわいた地区に参入した大手企業も複数ありましたが、地域の人間が中心になるという方針は、ふるさと熱電だけ。土地の所有は地元の人たちのまま、何かあった際のモニタリング(調査)も補償もしますと契約に入れてくださって。協議もまとまり、はじめは半信半疑でしたが、少しずつふるさと熱電への信用ができていきました」
2015/5わいた地熱発電所は正式に商用運転を開始
その後、後藤さんたちもわいた会に参加し30世帯全員が参加する形でわいた地熱発電所が運営される

2012年にはFITも始まり、15年間は固定価格で買い取ってもらえることに
わいた地熱発電所の年間発電量は、約1,700万kwh
これは小国町と隣の南小国町の全世帯をカバーするくらいの規模

わいた会事務局の高田さん
「この地熱発電は、生産井(せいさんせい)から上がってくる蒸気を、蒸気と熱水に分けて、蒸気のみをタービンに当てて発電するフラッシュ方式です。それが太陽光や風力と違って天候などで左右されない、365日変わらないのが地熱発電の特徴です」
脇にはもう一つ、熱水を使ったバイナリー発電も設置してある

ふるさと熱電の垣内さん
「こちらはバイナリー発電といって、熱水を使って揮発性ガスを蒸発させてタービンを回し、発電するしくみです」

地熱発電の難しさは、その開発規模
現在、小規模の発電所も含めると全国80カ所ほどありますが、その多くは東北電力、九州電力、出光興産、三菱マテリアル株式会社といった大手デベロッパー
その理由は探査・建設・運営において莫大なコストがかかる
温泉は地下200〜300mほどから引きますが、地熱発電はそれよりもずっと深い、500から2,000m近くまで掘り下げる
そのため大規模な掘削機器が必要になり、コストも年月もかかる
一般的に掘削コストは¥6〜7億、探査も含めると開発リードタイムは短くても10年と・・・

さらに、地熱の源泉にあたるかどうかは掘ってみないとわからない
掘削成功率は国の報告書によると8〜10%未満
適した土地の8割は温泉に近い場所や国立公園の中にあることが多く
温泉旅館組合などとの対立関係を生みやすい・・・
このため、地熱発電事業者と地元住民には丁寧なコミュニケーションや信頼関係構築が欠かせない

ふるさと熱電の赤石和幸社長
「地熱発電を成立させるためには、我々が地域に寄り添い、地域の方々も地熱発電事業に主体的にかかわる方が進めやすいんです」
「全国には温泉地域が3,000箇所あり、その熱源がどこにあるかは、地元の方々が一番知っています。温泉地域の方々が主体的にかかわり、地域の財源として事業を立ち上げることが最も大切です。
土地の所有者である住民と事業者が対立してもいいことは一つもない
合意形成を得ながら一緒にやっていく方が健全
わいたの場合は、住民の方々が主体なので協力し合うことができます
結果として、開発リードタイムが短く済み、掘削の成功確率も75%と比較的高くなっています」

わいた会の後藤さん
「事業者と対立関係にあると、わずかでも問題が起こると、相手を責めるだけに終始します。でも今は丸ごと自分たちのことなので、仮に問題が生じてもどうすれば解決できるか、どう問題を回避してうまくいかせるかと、知恵を出し合う前向きな関係なんです」
ほかの開発現場では、外から入った企業が自然や周囲の環境に配慮なく開発を進めることが懸念されがち
地元の人たちにとっては温泉も周囲の自然も大事
だからこそ、いきすぎた開発は行われず、自ずとバランスが取られる

現在、わいた第2発電所(4,995kW)の建設が始まったところですが
北海道でも地域共生型の地熱発電事業が立ち上がっていると

赤石さん
「地熱は単なる”地下の熱”では無く、”地域の熱”です。当社では、地域共生型の地熱発電事業と呼んでいますが、地熱発電事業がゴールではなく、地熱発電事業からもたらされる収益や熱などを使い、地域が活性化し、子や孫のために残していくものをつくることを目指しています」

現在まちで地熱発電を進める事業者は、わいた会・ふるさと発電を入れて5社
町役場でも、地熱のリスク対策を
かれこれ8年、地熱発電の担当者として携わってきたという小国町役場の政策課課長補佐の長谷部大輔さん
「温泉をひく200〜300mの浅い層と、地熱発電のより深い800〜1,000mの層の間には一定のキャップロック(不透過性岩層)があって、基本的には影響しないと言われています。ですが、目に見えないので、それってどういう形?何メートルあるの?割れてない?って追求されると、役場としてもはっきりしたことは言えないんですね。
加えて地熱発電で使う蒸気の量は、温泉旅館で使うよりずっと多い。すると影響がないと断定はできないんです。すぐに悪影響はないけれども、不安が残る。たとえば地熱発電所の隣にある温泉旅館にとっては、メリットはゼロで、不安だけが募ると。
そこで、せめて何かあった時に対応できるようにと、地熱発電に関わる事業者と地熱協議会をつくりました」
「発電業者さんに出力電力1kwあたり¥2,000〜¥3,000の寄付金をお願いする協定を結んでいます。わいた会の発電所は出力数が2,000kwなので、年に400万円いただいていて。それが3年分たまって1,200万円ほどになっています。いまはまだ発電に至っているのはわいた会のみです」

ほかの事業者でも売電が始まれば寄付を募る予定
そのまま何ごともなく、協議会のお金が5,000万、1億円とストックされていけば、よりまちのため、未来のために使っていけるかもしれない
ほかにも、ふるさと熱電ではさまざまな形で地域還元を
バジルなどを育てるグリーンハウス
地熱発電所から分湯されたお湯を熱源に年間を通して栽培ができる

垣内さん
「復活した盆踊りなどの維持に加えて、新しい景観づくりや人を呼び込む施策も進めていきたいと考えています」

わいた会に入る収益は、30世帯で分配する配当と
水路を整備したり、公民館を手直するなどに使われる

後藤さん
「地熱を木材や食品の乾燥に利用した産業も考えられると思いますし、地区に公園をつくったり、見晴らしのいい高台にカフェをつくったり。子や孫が帰ってきたときに就ける仕事をつくっておきたい。FITの固定価格による買取期間があと7年あります。その間に次への一手を打ちたいと考えています」

赤石さん
「わいた会のみなさんと当社で、これからわいた地区や小国町全体の地域活性化を進めていく予定です。例えば、地下の蒸気からは約15%くらいしか電気がつくれませんが、残りの85%の熱や温水をうまく活用すれば、化石燃料代替として排出権クレジットなども創出できます。
古民家を再生したコミュニケーション拠点の構築や、地熱をキーワードとした地熱を活用したテナント誘致も可能です。当社だけでは力不足なので、当社の株主のみならず、小国町やESG(環境・社会・ガバナンス)などに関心がある大手企業なども参加してもらう枠組みを考えています」

地熱を活かしたコーヒーショップ地熱珈琲もオープン
始めたのは山本美奈子さん。もとは小国町の地域おこし協力隊として観光事業に関わってきた方
「地域資源を価値化するというのが自分のテーマなんです。小さくても経済をまわし続けるために、地域資源を生かすとすると、この場所の場合は地熱なのかなって。金額は小さくても珈琲って人を呼ぶ力があるんですよ」
地熱珈琲のような新しいカフェができ、店ができ、宿ができ
地熱利用の聖地=小国町といった価値を発信できれば、新たな事業者が増え、地熱がまちの熱を生むようになるのかも

この住民主導型による、わいたモデルをふるさと熱電では、ほかの地域でも展開を検討

赤石社長
「このわいたモデルを応用すると、生かすべきは地熱発電に限らないことに気づきます。全国を見渡すと、多くの〇〇組合が存在するんですね。例えば、温泉組合、森林組合、漁業組合などの地域資源に一番向き合っている方々です。こういった方々が主体感をもち、我々の企業が地域に寄り添い、地域の資源を地域の収益にし、地域活性化を実現していくことができると思います」

・・・夢のある、お話

今日は~
セロジネ クリスタータ/ Coelogyne cristataスワダ

3月半ば以降、インターメディアと相前後して満開に
まだイイ状態

0 件のコメント:

コメントを投稿