2020年9月19日土曜日

かの国のデータ収集会社

 中国・深圳に拠点を置く国有系企業 振華数拠信息技術有限公司(以下、振華データ)が世界の政界財界関係者、軍事関係者を含む240万人分の個人データを集めていた、多くの専門家がそのデータの分析を進めており、データの入手方法や入手目的などについて議論が交わされている。

2020/9/14オーストラリア放送(ABC)、イギリス デイリー・テレグラフ、インドのインディアン・エクスプレスなどによれば、北京大学滙豊商学院(深圳)で教鞭をとった経験があるアメリカ人経済学者、フルブライト大学(ベトナム)のクリス・バルディング教授が、偶然このデータベースを発見し、告発した。

・・・どうやって?オープンだった?

振華データは2017年に設立したばかりで、深圳のハイテク産業が集中する同市南山区に本部を置いている。業務は海外のさまざまなデータを収集・分析し、中国国内機構に提供するというもので、オフィシャルサイトでもそのように説明されていた(この騒動が表沙汰になった後は、同社の公式サイトは封鎖されている)。

振華データのデータベースは通称 海外核心情報データベース(OKIDB:Oversea Key Information Database)と呼ばれ、大きく人物データベース、機構データベース、コンサルティングデータベース、関連データベースの4つにわかれている。公式サイトでは、240万人分のデータがあると説明されていた。

このうち人物データベースには、全世界の軍部、政界、ハイテク業界、メディアの関係者、民間組織リーダーなどのデータがそろっており、彼らのツイッター、フェイスブック、LinkedIn、インスタグラム、TikTok、ブログなどの資料を合わせて個人カルテが作成されている。さらに機構データベースでは、世界各国の核心的機構についての情報があり、それが人物データベースとリンクされている。

報道を総合すると振華データは中国政府および中国共産党、人民解放軍を主要顧客とし、世界の著名人の個人資料データベースを作ることを請け負っているという。

ネットセキュリティー専門家たちが、バルディング教授が入手したデータを調べたところ、トランプ大統領、ボリス・ジョンソン首相、の安倍晋三前首相、モリソン首相、モディ首相など世界の要人および軍人、ロイヤルファミリー、財界人、芸能人らの詳細な個人資料が含まれていることもわかった。また知名度は比較的低いが、経営者、学者、社会運動家、犯罪者などの個人情報もあったという。

振華データの親会社は国有企業の振華電子集団で、本部は貴州省貴陽にある。貴州省といえば、ビッグデータ産業の新聖地として習近平の肝煎りで貴安新区が2014年に制定された。振華データの王雪峰CEOはもともとIBMに勤務し、かつて中国のSNS微信上でデータを利用した情報戦を支持する発言をしたことがある。

・・・超限戦・・・

BBCが振華データのサイトを通じて関係者に連絡をとったところ、「メディアの報道は無から有を作り出している」と述べて報道内容を全面否定。またインディアン・エクスプレスによると、ニューデリー駐在のある中国外交官が匿名で「中国が、かつて企業や個人が保持している個人情報の提供を要求したことはないし、これからもしない」とコメント。ただし中国当局と振華データとの関係についてはノーコメント。

当社は一民間企業であり、中国政府とも人民解放軍とも無関係であり、一般の商業行為に従事しているだけであり、メディアが歪曲して報道している、というのが振華データとしての公式の立場。

バルディング教授は昨年(2019年)、中国の大手ハイテク企業ファーウェイのリサーチを行う過程で、このデータベースを偶然見つけたという。最初は中国共産党の監視対象である運動家・活動家のデータだと思っていたが、調べていくうちに、対象が全世界の多種多様の要人であることに気付き、中国のネット監視やデータ収集能力、インテリジェンスへの投資とその影響力を過小評価してはならないと考え告発を決心。振華データ関係者を通じて、データベースの複製を手に入れ、オーストラリアのネットセキュリティー企業Internet 2.0のロバート・ポッターCEOの協力を得てデータの中身を分析。さらに世界各国、メディア、ジャーナリストに資料を提供し、報道するよう求めた。個人ブログサイトでも9/14に声明を発表した。

資料のほとんどは、ツイッターやフェイスブックなどの公開情報をもとに収集したものだったが、住所、電話番号、生年月日、職業履歴や家族構成、銀行口座の番号のみならず、中には銀行の取引記録や、診療カルテなど、非合法に入手したと思われる情報も含まれた。

台湾・国防安全研究ネット作戦コンサルタント安全研究所の曽怡所長がアメリカの政府系放送局ラジオ・フリー・アジアの取材に答えて、こうしたデータはダークウェブサイトを通じて入手した可能性があると。ダークウェブサイトとは、閉じられたネットワーク上に構築された匿名性の強いサイトで、ハッカーたちがコンピュータウイルスやハッキングツール、あるいは麻薬や犯罪に絡む取引をしており、一部国家のインテリジェンス機関関係者も出入りしているという。特定の対象者に対するハッキングや情報収集にからむ取引もダークウェブサイトで行われているとされる。

ABCによれば、振華データのデータベースは軍関係者の資料がきわめて興味深いという。例えば米国空母の軍官に関しては特に詳しい記述がある。このことから、このデータベースの主要ユーザーは人民解放軍だとみられている。また個人単体の情報だけでなく、人によっては人間関係も詳細に書き込まれている。たとえばボリス・ジョンソンの資料には、彼の大学時代の友人や密接な関係をもつ人間の名前、来歴などもあったという。国別で言うと、アメリカ人が5万人以上、イギリス人が4万人、オーストラリア人が3.5万人、カナダ人が5000人、台湾人2900人、日本人も500人以上が含まれている。

デイリー・テレグラフの調べでは、データベースにはイギリスやアメリカの軍艦がいつどこに停泊するかといった情報も収集されていたという。さらにイギリスの国防・情報・航空宇宙関連企業、BAEシステムズのロジャー・カー会長の個人情報や、英国の宇宙産システム関連のサイトからダウンロードされた資料などもまとめられていた。

ほとんどがネットの公式情報の寄せ集めとはいえ、通常の手段では入手できない情報も多数含まれており、中国の情報収集力とデータベース構築力に世界が驚愕。

イギリス保守党のボブ・シーリィ議員「振華データのこうしたやり方は、個人の弱点を探し出すためだろう」

振華データの情報収集のやり方は、かつて問題視された選挙コンサルティング企業ケンブリッジ・アナリティカの強化版、という指摘もある。ケンブリッジ・アナリティカは、2016年のアメリカ大統領選や、イギリスのEU離脱(ブレグジット)を問う国民投票で勝利側が利用したコンサル企業として一躍注目されたが、フェイスブックを利用した情報収集のやり方にプライバシー侵害の疑いがもたれていた。ロシアンゲートの情報操作に関わったとの疑いがかけられたこともあり、2018年5月に破産申請し、業務停止している。

フェイスブックのスポークスマンはBBCに対し、振華データの情報収集のやり方は、フェイスブック利用規則に違反しており、たとえ公開資料であってもこのような使い方は許されない、とコメントしている。ツイッターも「振華データとはなんら情報共有協議をしていない」。

振華データのデータ収集のやり方は、たとえ営利目的の民間企業であっても当然問題があるのだが、やはり中国共産党政権下での国有系企業であるという点が最大の懸念。

西側民主主義国家であれば、情報収集についても政府とメディアが牽制し合い、監視し合う関係?。だが中国の場合党と政府とメディアは一体であり、情報の悪用を世論によって監視する仕組みがない。

理屈上は、政府がダークウェブから個人情報を収集すれば、メディアがスキャンダルとして暴き、世論によってその行為を正すことができる。逆にメディアが個人情報を違法に収集すれば、プライバシー侵害としてコンプライアンスとモラルを問われることになろう。

シドニー科技大学の馮祟義教授はABCに対し、「中国には、ネット企業を含めていかなる企業も、すべての持ちうる個人情報を政府に提供することを義務付ける法律がある。中共(中国共産党)政権は統一戦線戦略を継続している。もし、あなたの個人情報が中共政権にわたり、あなたが反共的な思想の持ち主であるとわかれば、あなたを攻撃したり孤立させたりできるし、もし親共的な人物であると思えば、取り込む対象となり、党の代理人としてリクルートされるかもしれない」

バルディング教授は、こうしたデータベースの存在は、中共中央と人民解放軍が民間ハイテク技術産業を利用して超限戦(非軍事的な要素を組み合わせた新しい戦争)の準備を進めていることの証左だと指摘している。こうしたデータベースが何をターゲットにしているかを調べていけば、中国のサイバー戦や国際社会における敵意の方向性がより明確にわかる、という。そう考えると、このデータベースがはらむ脅威はケンブリッジ・アナリティカどころの問題ではない。

アメリカは国家安全を理由に、周辺国にも中国のインターネットや中国の科学技術を利用しないよう呼び掛け、ファーウェイはどこからも半導体供給を絶たれてついにスマートフォン事業撤退か、といった崖っぷちに追い詰められている。

ファーウェイ製品には日本にもファンが多く、民間企業を政治的理由でここまで追い詰めなくとも、という同情論も耳にするが、振華データの問題をみると、中国企業に個人情報を預けることの恐ろしさを再認識させられる。

今日は~

テッポウユリ/Lilium longiflorum


地上部が冬を生き抜いたコ

ちょうど、お盆のころ開花

盆花に重宝

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