2022年8月8日月曜日

ロシアのウクライナ侵攻とインターネット

 ウクライナ侵攻で、インターネット上に様々な制限がされているロシア
そんなロシア国内の人たちの自由な通信を守る砦が筑波大学にある
筑波大学客員教授の登大遊さんが作り上げたVPNのサービスに、月間100万人を超えるロシア人がアクセスしている
接続している人たちは、このサーバーを中継地点にして、世界各国のサイトにアクセスしている
これは、「VPN(バーチャル・プライベート・ネットワーク=仮想専用線)」と呼ばれるサービスの一環

VPNはもともと、企業など組織内のネットワークに外部から安全に接続する仕組みとして考案された
コロナ禍で在宅勤務をするために使い始めたという人も多いだろう
VPNにつながる通信はすべて暗号化されており、接続する人がどのサイトにアクセスしているかなど、第三者が知るすべはない

ロシア国内はいま、SNSや海外メディアサイトへのアクセスが制限されている
ロシア政府がアクセス先を監視しているため
監視を逃れ、自由なアクセスを求めて、ロシア国民の間でVPNを利用する動きが広がっている
登さんによると、ロシアからの接続は月間100万人を超える
ウクライナ侵攻前の6倍以上
筑波大学が無償で提供しているVPNサービスは、もともと、2013年に登さんが研究用として開発したもの
誰もが自由に使うことができ、登さんに共感した世界中の協力者によって、全世界に約6000台のサーバーが設置されている
利用者から見れば、約6000カ所の接続場所があることになる
ロシアにいる人が日本のサーバーを選んで接続すれば、ロシアからは見られない西側メディアのサイトを見ることができる
ロシア当局からすると、ロシアにいる人が日本のサーバーに接続していることまでは把握できるが、その先はわからない
VPNサービスの入り口になっている筑波大学のポータルサイト
「外国政府の検閲用ファイアウォールを超えて、世界中の知識に自由にアクセス」

登さん自身は、特定の国に対する政治的な意図や特別な思いはないと
「何者かが妨害してつながらないという『けしからんインターネット』を直す。技術者として問題を克服するのは当然のことです」

ネット遮断といえば中国が有名
登さんもかつて、中国側からVPNサービスの接続を大規模に遮断されたことがあった
そこで、中国の通信回線から筑波大のサーバーに片っ端からアクセスを試みたところ、大学内に置かれたVPNサーバーだけ接続できなかった
狙い撃ちは明白だった
中国の通信会社に接続できない原因を聞くと
「回答できない」
ならば技術的に回避する手段に出ても文句は言われないだろう
「回避策を考え、妨害され、また回避策を考える。こうして技術力を高めることができた」
コロナ禍によるテレワーク需要を救ったのも、登さんだった
多くの人が自宅から職場のネットワークに安全につながる必要が出てきた
登さんは緊急事態宣言が発令された2020/4、VPNサービスのノウハウを生かしたテレワークシステムを2週間で作り、無料で公開
し職場と自宅に接続ソフトを導入すれば誰でも使える
今では全国に24万人以上の利用者がいる
さらに、約800の自治体が利用するシステムも作り上げた
登さんの仕事場近くにあるサーバーに接続された1本の黄色い光ケーブルが、全国の7万人近い自治体職員の業務を支えている

こうした登さんの行動の原動力は、ルールや規制にとらわれたり
自由な発想や行動が制限されたりすることへの「けしからん」という思いからきているという
思いついたら実験し、とにかく挑戦してみる
正しいと思うことは行動に移すが、それはきちんとした理由を考え、ルールを守った上でのことだと
1人の技術者の「つながりたい」という思いから作られた無料VPNサービスが
ロシア国民に自由なインターネットへのアクセスを提供している

・・・何やってんの? な
金食い虫のデジタル庁を思うと・・・

そして
ロシアによるウクライナ侵攻から10日ほどたった3月初旬
東京・飯田橋にあるインターネットイニシアティブ(IIJ)技術研究所の主幹研究員、ロマン・フォンテュニュさんは専門家の間で飛び交っていたうわさを耳にした
半信半疑ながら、パソコンを開き、通信状況のデータを分析してみた
同研究所にはインターネットの稼働状況が世界規模でわかる独自のシステムがある
これを作ったのがフォンテュニュさんだった
すると
2022/3/4アメリカの大手通信事業者コージェント・コミュニケーションズ(コージェント)からロシア最大手の通信事業者トランステレコムへつながる通信がぷっつりと途絶えていた
同研究所がこの発見を公表すると海外の大手メディアが次々と報じ、ニュースは世界を巡った
著名なネット専門家
「ロシアほどの規模の国に対して大規模通信事業者が切断するのは、インターネットの歴史上前例がない」
専門家の間では衝撃的だった出来事だが、一般の話題にはほとんどならなかった
事態の大きさと、それが何を意味するのか、気付いた人は決して多くなかった

いまや生活に欠かせない重要インフラとなったインターネットは、世界中の通信事業者が互いに網の目のようにつながり、地球の隅々までデータを届けることで成り立っている
ロシアのウクライナ侵攻では、市民がSNSなどを通じて情報を発信したり
政府によるプロパガンダや偽情報などがネット上に飛び交ったりする情報戦に注目が集まった
ただ、それは通信がつながっていることが大前提
今回、通信を遮断したコージェントは、インターネットの根幹を支える太くて広い通信網を持つティア1と呼ばれる事業者
ティア1とは、AT&Tなど自前で通信ケーブルを引いている世界の十数社を指す
日本ではNTTコミュニケーションズが唯一、これに分類されている
データの流れを水道の水に例えれば、ティア1は自前で水道管を持ち、配水する事業者のようなもの
コージェントが持つ水道管は太く、流している水量も多い
グローバルに駆けめぐる通信データの4分の1がコージェントを通過しているとするアメリカの調査リポートもある
フォンテュニュさん
「ティア1の事業者が遮断に踏み切るなんて、見たこともなかった」

このニュースが巡った直後、コージェントのデイブ・シェーファー最高経営責任者(CEO)は朝日新聞の取材に通信の遮断を公式に認め
「ロシアが偽情報を広めたり、サイバー攻撃を仕掛けたりするために、自社の通信網を利用することを防ぐ狙いがあった」
シェーファー氏は苦渋の決断だったと強調
「私たちは開かれたインターネットの強力な支持者だ。(接続の遮断は)非常に不本意ながら行ったことだ。ロシア政府の支配下で私たちのリソースが攻撃的な活動に使われる可能性がある以上、サービスの提供はできなかった」

さらにこの動きはコージェントに留まらなかった
4日後の3/8には、やはりアメリカの大手通信事業者であるルーメン・テクノロジーズ
「ロシア国内のセキュリティーリスクが高まったため、ネットワークを切断することにした」
ロシア国内のネットワークを停止すると発表
だが、その後は雪崩を打つような動きにはならず、ロシアとの接続遮断に踏み切った大手通信事業者は、いまのところアメリカの2社だけとみられている
シェーファー氏
ロシア国内のインターネットは、中国やヨーロッパなど複数の事業者が回線を接続しており、コージェントが接続を遮断したことで起きた影響は
「(ネットフリックスの動画配信など)ビデオストリーミングの機能が低下する程度だっただろう」

それでも専門家や研究者の間で衝撃が大きかったのは
今回の出来事が、地球規模に拡大したインターネットの転換に見えたから
フォンテュニュさん
「もしティア1が相次いで接続を遮断していれば、インターネットは『分断』してしまったかもしれない」
インターネットの分断、それはスプリンターネットの時代の到来
世界を一つに結ぼうとしてきたインターネットに亀裂が生じ、分断化しようとする動きが広がっている
英語の”splinter(破片)”あるいは”split(分割)”と”internet”を組み合わせた造語
これまでは、サイバー空間への自由なアクセスに対し、国家間や対立する地域間で何らかの制限をする事象を指し示していた
代表例は中国
国内からはグーグルやツイッターなど西側のサービスにアクセスができない
中国当局が国外への接続をチェックし、遮断しているから
いわば、インターネットに国境を築き、国の政策に合うものだけアクセスを認めている状態

ところが今回、ロシアを取り巻く状況は、それとは大きく異なっている
ロシア政府による遮断は中国と同じだが
西側の大手IT企業や通信事業者が、ロシアをインターネット上から切り離す動き
しかもその判断は国ではなく民間企業の手に委ねられている
これは、新たなスプリンターネットの動きと言える

インターネットは、1969年にアメリカの四つの大学・研究所を結んだ通信から始まった
当初は学術研究のみの利用に限定されていたが、90年代に入り商業利用が認められたことで利用者数が増大
98年に創業したグーグルなど、民間の参入でさまざまなサービスが生まれ
同時に海底ケーブルが次々と敷設されるなど、世界中に通信網が築かれていった
それを実現できたのは、世界のコンピューターが同じルールで結ばれたことにある
各国のIT企業や通信事業者は互いを通信回線で結び、データを正しい宛先に運ぶ
データを受け取ったら、自社とは無関係でも責任を持って次へと渡す
そのコストはそれぞれが負担する
この自律・分散・協調という基本理念によって、通信コストが大幅に抑えられ
私たちは手軽にインターネットを使えるようになった
その存在を意識することすらなく、膨大な通信データが生じる動画配信サービスで一日中映画を見たり
コロナ禍で大人数がリモートワークをしたりできるのは、この仕組みのおかげ

だが、民間企業が独断で通信を遮断することが常態化し、スプリンターネットが進んでいくとどうなるのか
グローバルなインターネットから切り離された孤島のようなネット空間が、あちこちに生まれる可能性がある
それは、膨大な利用者によって支えられ、費用と負担を分散することで低コストで動いていたインターネットが機能しなくなることを意味する
その先には、インターネットの発展とともに歩んできた社会の崩壊?

ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに、半世紀をかけて築き上げられた地球規模のネットワークに、小さな、だが無視できないほころび
このほころびは、このまま小さな穴にとどまるのか
それとも、次第に広がるのか・・・

今日は~
フウラン/Vanda(Neofinetia) falcata天賜

7月半ば開花
ウレシイ
標準的な花だけど
シンプルな白
チョットした花粉の色
造形の妙
イイわ~

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