2021年9月23日木曜日

武漢病毒(ウイルス)襲来

 いまだ収束の気配をみせない新型コロナウイルスパンデミック
このウイルスは一体どこからきたのか
謎多きウイルスが最初にアウトブレークした2020年春節(旧正月)のころの武漢では、多くの市民記者がその真相を探ろうとして当局に拘束され
ウイルスの危険性を告発しようとした医師たちがその口を封じられた
その庶民の苦しみ嘆きをインターネットで訴えた人々は失踪
武漢市の庶民らの姿を投影した小説 武漢病毒(ウイルス)襲来 が刊行された
著者・廖亦武氏は、かつて天安門事件を批判する詩を発表したことで投獄され、のちにドイツへ亡命した反骨の文学者
現在ベルリン在住の廖亦武氏に、小説に登場する実在の人物の実在の物語について・・・

武漢病毒襲来は、市民記者の キックリス という実在の人物の物語から始まる
武漢ウイルス研究所の取材に行った彼が国家安全部(国安)の車に追いかけられるカーチェースは実際に起きた事件で、今もYouTubeに残ってる
このキックリスについて、廖亦武氏の小説の中では、紅二代(共産党幹部の子弟、太子党に属する特権階級)であると書かれている

キックリスこと李澤華は1995年生まれで、もともとCCTV(中国中央電視台)の人気司会者
その後退職してセルフメディア『 不服TV 』を始めた
この『不服TV』はYouTubeにも公式アカウントがある
彼は市民記者として単独で武漢に入り、多くの視聴者の注目を集めていた
当時、武漢では弁護士の陳秋実やビジネスマンの方斌らが市民記者を名のって独自取材をしていたが
彼らとちがってキックリスは元CCTVという専門的背景もあり、オフロード車を使い、防護服などの装備を整え、撮影・取材・解説も非常に客観的でプロフェッショナルだった
だから現地の公安当局も彼を紅二代だと思いこんでいたと・・・

私はずっとキックリスの追っかけをしていました。ほかの市民記者にも注意を払っていた
みんな最も注目していたのは、武漢での本当の死者数は一体何人なのか?
どのように死んでいったのか?
キックリスも最初は火葬場を取材していたが、その後、武漢ウイルス研究所のP4実験室に行った
それで国家安全部に追われるように

キックリスが逮捕された瞬間を捉えた 2020/2/26のライブ配信 を見て、それにインスピレーションを受けて、すぐにこの物語を書き始めた
その時、西側メディアは、解放軍の化学兵器防御専門家の陳薇少将が特別部隊を引き連れてP4実験室を接収したと報じていた
当時の最大の焦点は、P4実験室の責任者であるウイルス研究者の石正麗に当たっていた
なぜなら石正麗は、2003年におきたSARSによる感染流行が終わったのち、コウモリが持つコロナウイルスの研究を始めた専門家であり、千数百キロは離れた雲南の廃坑洞窟でコウモリコロナウイルスのサンプルを採集して武漢に持ち帰っていたから
こうした情報の一切は、武漢ウイルス研究所のオフィシャルサイトで公表されてた
それを全部ダウンロードしましたが、その後、こうした鍵となる資料はすべてサイト上から削除されてる
キックリスは武漢ウイルスの起点がP4実験室だと思って調査、取材しようとして国家安全部に捕まったと・・・
このキックリスの物語を書いて、いくつかのヨーロッパ・アメリカ紙に寄稿しようとしたが、すべて編集者に断られた
みんな、こういう論を掲載すれば陰謀論を載せていると思われると懸念した
こうしたメディアの北京駐在記者たちはみな
「武漢ウイルスがP4実験室から流出したということが、目下、非常に噂になってはいるが、証明する方法がない」と・・・

キックリスは一時失踪したのち、ある日突然、再び動画をアップ
その中でとても短く、当局に拘束されたことを釈明
再び姿を消した
今に至るまで表舞台には出てきていません
表に出ることを、どこからか禁止されている?
・・・もういない?

キックリスのほかにも、多くの市民記者が武漢に取材に
廖 多くの市民記者たちが自発的にロックダウン中の武漢に取材に行きましたが、みな途中で捕まった
あの時武漢に入ったセルフメディア記者は、方斌、陳秋実、キックリス、張展しかいなかった
もちろん、ロックダウンのとき、『武漢日記 封鎖下60日の魂の記録』を書いた武漢在住の女性作家・方方のように、多くの市民が自分自身で記者のように記録を取ってた
が、国家のメディア拡声器を総動員して広めたウソの壮大なポジティブパワー・ストーリーに比べれば非力

 武漢病毒襲来 が日本で出版されたばかりのとき、元弁護士の張展が2020年に撮影した動画を見た
これは心に残りました
張展はキックリスのようにオフロード車も防護グッズも持っていませんでしたが、キックリスと同じように、P4実験室を調査しようとした
どうしても敷地内に入れず、彼女はスマートフォンを掲げて、P4実験室のまわりをぐるりと一周した
彼女は歩きながら
「武漢ウイルスの発生源はこのあたりかもしれない。この四角い建物と丸い建築物の中なのかも」
その結果、彼女はまもなく逮捕
張展は逮捕されたのち、長期にわたってハンガーストライキを行ったために衰弱
獄中死する可能性が非常に高い・・・
張展は2020/12/28公共秩序擾乱の罪で懲役4年の実刑判決を受けた
公判に出てきた彼女の様子をネットで見またが
まだ37歳なのに、衰弱して髪も抜け落ち、老婆のよう
武漢で取材をしたのちに失踪し、5月になって上海で逮捕されたことが明らかに
当初は無罪を主張し、食事を拒否したため、喉に管を通して栄養を取らされる強制摂食などの非人道的扱いを受けていたとか・・・

『武漢病毒襲来』にも登場している女性医師、艾芬の報道が 文春オンライン でも紹介され、大きな反響が
日本の読者にもっと知ってほしい当時の武漢の物語は?

廖 日本の読者に知ってほしいのは、中国人は共産党に何度も洗脳されてきてはいても、真相に対する興味はやはり強烈
これが独裁者にとって最大の脅威
艾芬医師の物語については、『武漢病毒襲来』の第4章 李文亮は逝き、真相はすでに死んだ
の中で、猛烈な勢いで拡散した様子が描写されている

艾芬医師は共産党員であることよりも人としての正義感が打ち勝って、月刊『人物』の取材を受けた
この記事は、新型コロナ感染期間全体を通じて最もセンセーショナルな記事に
当局はすぐにインターネット上で削除するのですが、その削除までのほんの短い間に、ものすごい勢いで拡散
武漢から警鐘を鳴らすも警察からデマを拡散したとして訓戒処分を受け、その後、無防備な状態で患者の診察を続けて新型コロナに感染した眼科医・李文亮の悲劇に呼応した
もちろん、ネット版記事はアップされると即座に削除
雑誌も出版封鎖警告を受けたのですが、タッチの差でその記事は、自動的にスクリーンショットをとって拡散するネットワームと呼ばれるシステムで、多くの微信アカウントで同時に発信
グレートファイヤーウォールを乗り越えて海外のプラットフォームにも張り付けられて、世界中に拡散されていった
ネット警察は当時、インターネット管理当局と公安局の国内安全保衛総隊(国保)と連携して、2011年の『ジャスミンネット革命』のときに行なった複数の集会現場での同時ガサ入れ逮捕と同様の猛烈な取り締まりをした
が、この記事は次々と拡散され、その拡散スピードはウイルスの100倍、あるいはネット警察の10000倍は速かった
削除されないように、英語やドイツ語、日本語、韓国語など40か国語の自動翻訳版も拡散され
変形漢字の篆文や文語体や西夏文字のフォント版なんかも出回った

『 武漢病毒襲来 』の中では、いくつか詩が登場
こうした詩は実際に武漢の都市封鎖中、中国のインターネット空間に流れたもの
その詩の題材も、ネットのSNSで書き込まれた庶民の嘆きや訴え
家族に感染させるのが嫌で自殺した人、仕事を失って自殺した人、息子を入院させるために何日も病院前に並ぶ老人、出稼ぎ家庭で祖父と5歳の孫が取り残され、トイレで死亡した祖父の遺体に布団を掛けて幼い子供が5日間も寄り添っていたという話
そんな庶民が直面した40以上の悲劇が詩の形式で描写されてる
小説の最後の方に引用されたマリリンモンローこと張文芳の書いた詩『武漢挽歌』

廖 張文芳の『武漢挽歌』は、その一行一行が、武漢ウイルスのアウトブレーク時に起きた惨劇を描写
ネット上で発表されてすぐ、彼女は秘密裡に逮捕、懲役6か月の判決を受けて服役
当時、彼女がそんな目にあっていたとは誰もしりませんでした
私は彼女の詩の小説での引用了承を得ようと、武漢の友人を通じて彼女と連絡を取ろうとしましたが果たせず、今年2月に、彼女の判決書の写真がツイッターに流れて、ようやく服役中であることがわかった
今もって誰も張文芳とコンタクトが取れない

中国では、短時間の失踪も、長期の失踪も、永遠の失踪もある
失踪させられる
恐ろしいのは現在中国十数億人の中で、一部の人たちやとある個人が忽然と姿を消すことに、だんだん慣れてきてしまっていること

新型コロナの起源についてアメリカの情報機関がリポートを出しています
生物兵器の可能性は否定するも、実験室漏洩については可能性を保留について
廖 想定の範囲内
この小説で引用した資料、各種の詳細な情報はすべて、このリポートでもカバーされています
人造ウイルスではないということも含めて。私はウイルスはソ連のチェルノブイリの放射能漏れ事故と類似のものだと小説中でも言及してる
ただ、チェルノブイリよりは悪質であると・・・

第一に、中国科学院武漢ウイルス研究所の公式資料によれば
P4実験室の責任者の石正麗チームが、長い時間をかけて、何度も雲南の洞窟から大量のコウモリ由来のウイルスのサンプルをとって、実験室内に保存していた
その中には、強力な感染を起こすものもあった

第二に、石正麗チームは何度もこうした自然のウイルスに対し、機能獲得実験を行い、最終的に人体の免疫システムを開く鍵を見つけた

第三に、李文亮ら8人の医師が、謎のウイルスについての伝聞を広める前
中国政府もこの謎のウイルスの恐ろしさを知らなかった
だからデマとして一蹴
緊急措置を取らず、武漢から全国に感染を広げてしまった
このとき、中国政府は確かに故意にウイルスを拡散したわけではない

第四に、だが、武漢など十数の都市封鎖を実施したのち、中国政府はすでに武漢ウイルスの恐ろしさをよくわかっていたはず
だが、すべての空港の税関とフライトはすぐに封鎖せず、この恐ろしいウイルスを海外に流出させ、全人類を攻撃させるに至った

過失であったけれど、起こるべくして起きた過失
パンデミックはむしろ故意に近い過失

廖 混乱が続くでしょう
目まぐるしく次々と惨劇が起きる
しかし、一つの時代の目撃者である亡命作家として、この混乱期の世界を頭をもたげてしっかりと見た後
私は頭を低く下げて、自分の内心を見つめ、歴史の深淵を振り返ろうと思う
天安門の大虐殺から今に至るまで
いや、1949年にこの人間性の絶滅した独裁政権が誕生したはじめから今日までの一切を・・・

・・・読み応えがありそう

今日は~
モナンテス アミドロス/Monanthes amydros

4月の終わり
花が満開
前にアげたコとは別のコ
(元は同じ)
今はコッチのがワサワサ

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