新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)でプラスチック業界が激震。武漢からニューヨークまであらゆる地域で、フェイスシールドや手袋、食品のテイクアウト用容器、オンラインショッピングで注文された商品の配送用緩衝材などの需要が増えているが、こうした製品はリサイクルできず廃棄物が急増。
一方、業界内ではコロナ禍でリサイクル品と新品の間で価格競争が激化。5カ国で20人以上に取材した結果や価格データから、世界各地でリサイクル品がその競争に負けてた。
中国廃塑料協会のスティーブ・ウォン会長 「本当にたくさんの人が困っている。トンネルの先に明かりが見えない」リサイクルプラスチックが新品との価格競争で敗北を喫したのは、原材料である化石燃料の値下がりが原因。ほぼすべてのプラスチックは化石燃料から生成されるが、石油はコロナ禍による景気減速で需要が落ち込んで価格が下落。新品のプラスチックも値下がりした。
2017年に科学誌サイエンスに掲載された調査よると1950年以降に世界中で発生したプラスチック廃棄物は63億tで、その91%はリサイクルされていない。廃プラスチックの大半はリサイクルが難しく、リサイクル業者の多くは以前から政府の支援に依存している。業界でバージン材料と呼ばれる新品プラスチックの価格は、最も一般的なリサイクル品の半分ということもある。新型コロナ感染拡大以降、リサイクルプラスチックの利用方法として最も一般的な飲料用ボトルですら生き残りが難しくなった。市場調査会社ICISによると飲料ボトル製造用のリサイクルプラスチックは新品ボトルの製造に適合するプラスチックに比べて83-93%割高。
多くの国で政治家がプラスチックの使い捨てによるごみとの戦いを約束したが、そこを新型コロナが襲った。世界で取引される廃プラの半分以上を輸入していた中国は、2018年に輸入を禁止。EUは21年から使い捨てプラスチック製品の多くを禁止する計画だ。米上院は使い捨てプラスチックの禁止を検討中で、リサイクルに関する法的な目標を導入する可能性がある。世界経済フォーラムが飲料業界のデータに基づいて試算したところによると、プラスチック製ボトル4本の製造で排出される温室効果ガスは、自動車が1マイル(約1.6km)走行する際の排出量に相当する。
化学エンジニアのジャン・デル氏が19/4に公表した調査によると、アメリカで燃やされるプラスチックの量はリサイクルの6倍。新型コロナ流行により、プラスチックごみは減るどころかさらに増える流れが際立っている。
シンクタンクのカーボン・トラッカーが9月に実施した調査によると、石油・ガス業界はバージン原料用の素材生産のために今後5年間に$4000億程度を投資する計画。電気自動車(EV)の普及やエンジンの燃費改善で燃料の需要が落ち込む中、新プラの需要増が今後の石油・ガスの需要の伸びを支えると期待しているため。アジアなどでは中間層の消費者が新たに大量に生まれプラスチック製消費財の利用が高まると当て込んでいる。エクソンモービルの広報担当者 「向こう20年から30年間にわたり、人口と所得の伸びによってプラスチックの需要が増える見通しだ。プラスチックは安全で、便利で、高い生活水準を支える」
企業のほとんどはプラスチックごみへの懸念を表明し削減を支援しているが、こうした取り組みへの設備投資は新プラ向け投資に比べればほんのわずかにすぎない。BASFやシェブロン、ダウ、エクソンなど大手石油・化学企業12社では、廃プラ削減への投資額の詳細を明らかにした企業は一握り。3社は詳細についてコメントを避けたか返答がなかった。
ほとんどの企業は消費財関連企業などが支援する廃棄プラスチックをなくす国際アライアンスを通じてこうした取り組みを行っていると説明。約束している設備投資額は今後5年間で$15億だ。国際アライアンスのメンバーの47社はほとんどがプラスチック業者で昨年の合計売上高は$2兆5000億。
インパックス・アセット・マネジメントの持続可能性部門の責任者、リサ・ビュービリアン氏 新プラにこれほど多額の投資が計画されていることについて「非常に心配な動きだ「廃棄物処理やリサイクルで制度の整備が遅れている国は、さらに廃プラが増えれば処理する体制が整わないだろう。われわれは文字通りプラスチックの中におぼれつつある」
世界各地のリサイクル業者によると新型コロナ感染拡大以降、リサイクル業界は大打撃を被っており、落ち込みは欧州で20%以上、アジアの一部では50%で、アメリカ企業の一部は60%に達している。
リサイクル会社QRSのグレッグ・ジェーソン氏 こうした状況は10年前には想像もできなかった。アメリカはバージン材料の生産コストが最も低い国の1つになり新プラの流通量が増えている。「パンデミックで新プラの津波が一段と大きくなった」
石油・化学企業はプラスチックが人口増加に絡む世界的な課題解決の一端を担い得ると回答。6社は廃プラを再利用する新たな技術を開発中だと。また、プラスチック以外の容器や包装はプラスチックよりも温室効果ガスの排出量が多くなる可能性があるとも指摘。プラスチックは軽く、消費者にとって不可欠で、温室効果ガスの排出削減に役立ち得るからだという。政府に廃棄物処理のインフラ整備の支援を求める声もあった。BASFの広報担当者 「生産能力の増強でプラスチックの廃棄による公害が増えるとは限らない」必要とされる天然資源を減らす包装用材料の開発に何年も取り組んでいると。
今、発展途上国の小規模な店舗の多くがプラスチックパウチに入れた日用品を売っている。NGOグローバル・アライアンス・フォー・インシナレーター・オルタナティブズによると、フィリピンで使われるプラスチックパウチは1日当たり1億6400万枚。年間では600億枚近く。ネスレやP&Gなど消費財メーカーは、リサイクルやリユースが可能な包装の製造に努めている、としている。例えばP&Gはマニラの学校で100万枚のパウチを集めて、元の製品よりも価値の高いモノを生み出すアップサイクルを行うプロジェクトに取り組んでいる。しかしプラスチックパウチはリサイクルが非常に難しい。コロナ禍が生んだ新たな環境汚染の要因の1つであり、配水管の詰まりや水質汚染を引き起こし、海洋生物を窒息させ、ネズミや疾病の媒介となる昆虫を引き寄せる。
素材の一部にプラスチックが使われるマスクも、環境汚染の要因。公式統計によると、中国の3月のマスク消費は1億1600万枚で2月の12倍に急増。コンサルタント会社iiメディア・リサーチのリポートによると、中国の2020年のマスク製造は全体で1000億枚を超える見通し。コンサルタント会社フロスト・アンド・サリバンによると、米国は新型コロナ感染のピーク時の2カ月に出た医療廃棄物が金額ベースで1年間相当に達した。
廃棄物が増えるとしてもプラスチック需要の増大は石油化学会社にとって社運のかかる問題。エクソンは3月の投資家向けの説明で、石化製品の需要は向こう20、30年間にわたり年間4%の伸びが見込まれるとした。
BPは9月の年次市場報告で、2018年に90%超えていた輸送向けエネルギーにおける石油のシェアが80%を切り、2050年には20%程度まで低下する予想。石油会社は環境への懸念が石化製品の伸びをそぐのではないかと危惧している。
今年だけでエクソン、ロイヤル・ダッチ・シェル、BASFなどが中国の石化プラントへの投資を発表し、総額は$250億となっている。コンサルタント会社ウッド・マッケンジーによると、これ以外に今後5年間で176件の石化プラントの新設が計画されており、その80%近くがアジアに集中している。
アメリカ化学工業会(ACC)によると、アメリカでは2010年以降エネルギー企業によるプラスチックなど化学関連プロジェクトの設備投資が333件、$2000億強に上った。アメリカはシェール革命で安価な天然ガスが豊富に出回り石化業界がこの機を利用しようと設備投資を活発化させた。
アメリカ プラスチック工業協会(PLASTICS)のトニー・ラドセウスキ氏 「コロナ禍の間、使い捨てプラスチックが生と死を分けてきた」点滴剤の容器や人工呼吸器には使い捨てプラスチックが欠かせないと訴えた。
PLASTICSは3月、アメリカ保健福祉省に書簡を送り医療現場におけるプラスチック製バッグの利用禁止措置を撤回するようを求めた。
しかしアメリカ国立アレルギー・感染症研究所が行った調査では、新型コロナウイルスがプラスチック上では72時間後も活性を失っていないことが分かった。これに対し段ボールや銅は24時間。
ACCの幹部は、プラスチックを禁止しても消費者はガラスや紙など他の使い捨て原料を利用するようになるだけなのでプラスチックの用禁止に反対していると説明。「厄介なことだが、プラスチックを禁止してもリユース可能な製品が代わりに使われることはないだろう」
国際自然保護連合などによるとプラスチックは海洋ゴミの80%を占めている。国連によるとプラスチック汚染はカメやクジラなど海洋生物を死に至らせ、廃プラスチックから流れ出る化学物質が体内に取り込まれるとホルモン異常やがんなどさまざまな被害を引き起こす。
プラスチックのリサイクル業者は、新型コロナのパンデミックで新たな課題に直面している。
ICISによると、第2・四半期にヨーロッパの包装用産業向けリサイクルプラスチックの需要は前年同期比で20-30%減少。ポルトガルのリサイクル会社エクストゥループラスのサンドラ・カストロ最高経営責任者(CEO)によると、同時に新型コロナ流行で自宅にこもった人々の間で断捨離が広がりリサイクル用のごみは増えている。「リサイクル業者の多くは処理が追いついていない。自分たちが生み出したごみの解決策を提供できなければならない」
コカ・コーラは9月、イギリスの包装材料におけるリサイクル品の比率を2020年初頭までに半分に引き上げるとの目標について、新型コロナの影響で達成時期が遅れると明らかにした。11月には目標が達成できると見込んでいる。
NGOブレーク・フリー・フロム・プラスチックの調べによると、コカ・コーラ、ネスレ、ペプシコの3社が2年連続でプラスチックごみ汚染企業のトップ3となっている。3社は数十年にわたりプラスチックのリサイクルを増やすとの自主的な目標を掲げているが、おおむね達成できなかった。ネスレの広報担当者 「バージン材料よりも高い価格でリサイクルプラスチックを購入することも少なくない」原料リサイクルへの投資は最優先課題だとした。この3社のリサイクル・ごみ清掃プログラムへの投資は7年間で総額$2億1500万。ICISとウッド・マッケンジーは、リサイクル向けの投資が今のペースなら目標達成はおぼつかないとしている。
ピュー・トラストが6月に公表した調査、各社が発表済みのリサイクル目標を達成しても海洋投棄されるプラスチックごみは現在の1100万tから2040年には2900万tに増加する。投棄の総量は6億t。
廃棄プラスチックをなくす国際アライアンスは国際的な懸念の高まりを受け発展途上国で清掃作業を行っている小規模なNGOと協力関係を結ぶと発表。国際アライアンスのジェイコブ・デュアーCEO 「一夜では変わらないと分かっている。われわれにとって重要なのは、私たちのプロジェクトが終着点ではなく出発点だと見なされることだ」
・・・ストローをプラスチックから他のものにしてもドモならん
今日は~
ヒガンバナ
9月の終わりっころの出先
赤い花の中に白が1本
・・・テキストに色がつけられた