脳科学者のジル・ボルト・テイラー博士
37歳のときに左脳の脳出血(脳卒中)で、それまでの認知機能、身体機能を失う
その後、8年間のリハビリの末、すべての機能を取り戻しました
その実体験と神経解剖学の科学的見地から
テイラー氏の新著『WHOLE BRAIN(ホール・ブレイン) 心が軽くなる「脳」の動かし方』
の翻訳を務めたサイエンスライターの竹内薫氏がテイラー氏に聞きました
前編は脳の4つのキャラとそこから生まれる世代間ギャップ
脳を客観的に捉えれば、なりたい自分になれる
脳卒中になったのは37歳
4時間のあいだに、自分の脳の左半球が完全に停止
細胞や神経回路がその機能をすべて失っていった
その日の午後以降、歩くことも話すことも、読むことも書くことも、自分の人生を思い出すこともできなくなり
自分はまるで、おとなの女性の体をした乳児
その後、8年をかけ、自分の脳の右半球に残っていたものを最大限に使って、左半球の回路を再構築
完全に機能回復
私は部位ごとの脳機能のオンとオフを体験したことで、自分の脳内に、特徴のある複数の人格があることに気づいた
一般に言われている右脳は感情、左脳は思考という単純な右脳/左脳の考え方は十分ではなく
左右の脳それぞれに感情と思考を司る細胞群があり、考え方や感じ方の異なる4つの個性的な人格(キャラ)、もしくはアイデンティティーのようなものがある
私は、脳出血によって左脳の機能を失ったとき、言葉を失くした
言語能力は左脳が司っているから
また、左頭頂葉の細胞群がオフラインになってしまったので
自分がまるで宇宙と同じくらい大きくなったように感じた
その細胞群は、自分の体がどこから始まり、どこで終わるのかという境界を認識する役割を果たしている
その機能がシャットダウンし、私は私という個の感覚を失った
それまで私が知っていたジル・ボルト・テイラーという女性は、あの日、死んだ
彼女の好き嫌いも、彼女の過去も未来も消え、彼女のことを考えることはなかった
そして、右脳の機能だけが稼働する状態の私は、生死の境をさまよっていたのに
なぜか、とてつもない多幸感に包まれていた
そこから長いリハビリが始まり、リハビリの結果、左脳の機能も元どおりに
私は脳の右半球の細胞群を使って、左半球の回路を再構築していこうと懸命に努力
そして、ある一定の回復レベルに達すると、過去の自分の人格が再びオンラインになることに気づいた
私が<キャラ1>と呼んでいる左脳の思が復活
<キャラ1>は私の合理的な思考
整理整頓が好きで、秩序を作るのが好きで、分類するのが好き
人、場所、物をコントロールするのも得意
彼女は以前の私自身、ジル・ボルト・テイラー
私は、どこからどこまでが自分かという、その境界線を再び手に入れた
彼女はオンラインに戻ってきて、私を牛耳ろうとした
完全に機能的になって 帰ってきたわ、また私が仕切るわよ
ついてきなさい!と張り切っていた
でも、ほかのキャラたちは
「あなたのスキルが戻ってきたのはうれしいけど、またあなたに仕切ってほしいとは思わない」
こんなふうに、私の脳の異なる部位の間で、リアルな会話が繰り広げられていた
・・・どんな感じ?
こうして左右の脳の半球にそれぞれ1つずつある、人格をもった感じる細胞群と
考える細胞群の存在を知ることができた
脳は4つの独自の人格を有している
脳の中には、2つの感じる細胞群、2つの考える細胞群があり
それぞれが独自の人格がある
<キャラ1>時間を厳守する自我の強いリーダー。整理整頓好き
<キャラ2>傷ついた子どもの自分、不安、恐怖、怒り、自己嫌悪
<キャラ3>ありのままの自分。私は宇宙の一部
<キャラ4>無邪気な自分。好奇心・遊び心がいっぱい。今が大事
心と頭が別々のことを言っているときは、脳の異なるキャラ同士が争っている
自分自身を進化させれば、自分を形成する4つの細胞群すべてを尊重することができるようになる
それができれば、私たちは自分自身の選択に基づいて
自分が何者でどういうふうになりたいかを、その都度、選ぶ力を持てる
4つのキャラは、ユング心理学とも符合する
カール・ユングは4つの元型について述べている
元型とは、私たちが、ある時どきに示す性格
いわば、私たちを決定づける性格のプロフィールのようなもの
私は、カール・ユングの4つの元型と、脳の4つの部分によって表される<4つのキャラ>がほぼ完璧に重なりあっていることに気づいた
ただし、違うところもあり
ユング心理学では、4つの元型のうち1つだけ意識的な自我があり
それ以外はすべて無意識だとしている
私の世界では、4つのキャラにみな意識がある
私の左脳に脳出血が起こったとき、私は<キャラ1>と<キャラ2>を失った
<キャラ1>はユングの言う自我
<キャラ2>はシャドウ、つまり過去の苦しみや将来への不安
それらがなくなって、私に残されたのは
今、この瞬間の経験であり
ユングが”アニマ・アニムス”と呼び、私が<キャラ3>と呼んでいるものと
私が<キャラ4>と呼んでいる”真の自己(セルフ)”だけ
これはとても興味深いことで、100年以上にもわたって、4つの特定の性格のタイプが
人間の内面を表出するという考えが受け入れられている
もちろん、それが心理学なのだということはでるが
心理の動きはすなわち脳の機能であり、その出力の仕方
神経解剖学者である私は脳細胞を見て
この細胞がもっている能力に基づいて、その人の性格が決定づけられると考える
私は自分の脳のどの細胞群がどのような働きをしているのかを知ることで
意識的に行動することができるようになっていた
心理学や精神医学に興味がある人なら、これはとても興味深いこと
世代間ギャップは脳の働き方の違いから生まれる
それぞれの世代に、典型的な強いキャラがある
脳の情報処理の仕方が世代によって異なると考え
それを4つのキャラに当てはめてみてみると、興味深いことが分かる
日本・アメリカの世代の捉え方は多少ずれるかもしれないが
その違いについては、ほぼ同様の見方ができる
今アメリカを動かしているのはミレニアル世代
ミレニアル世代は、団塊の世代とはまったく逆のやり方で、ビジネスや仕事に取り組んでいる
この2つの集団の間には大きな溝があり
その溝は団塊の世代が左脳的なスキルセット
つまり言語、数学、工学、こういった構造を左脳を通して学んだことと
その子どもの世代(ミレニアル世代)はテクノロジーの進歩によって
右脳を通して学んだということが、一部起因していると考えられる
右脳の情報整理の仕方は、左脳のそれとまったく違う
ですから、左脳に偏った人々と、右脳に偏った人々の間には
世界をどのように見て、何に関心を持ち、何を大切にして、どのように生きるのかということに関して大きな隔たりがあるの
ミレニアル世代は、ちょうど2001年、私たちアメリカ人にとって、大きな衝撃をもたらしたツインタワーへの攻撃(アメリカ同時多発テロ)があったころ、成人になった世代
あの事件は、アメリカ人には初めての経験
確かにそれまでも、戦争はあったし、多くの紛争もあったが
それがこんなにアメリカ国民の身近に迫ったことはなかった
私たちは長い間、自分たちは安全で守られていると感じて生きてきた
あの事件が起こったころから、国民の恐怖と不安のレベルが上がった
そして2008年には金融危機が起こった
そのため、若い家族が団塊世代の親と同居するようになり、不安定な状況が生まれた
ミレニアル世代は、こういった社会情勢の変化によって不安や恐怖のレベルが高くなっている
一方、彼らは右脳優位で、集団主義的なところがあり、みんなで何かをするのが好き
誰かと一緒にいるのが好き
一緒に決断し、一緒にビジネスをするのが好き
「まあ、もう3年勤めたんだし、他のチームに移って別な仕事をしてもいいかな」
という考え方で仕事に向き合っている
かたや団塊の世代は、いい仕事は絶対に手放さない
40年間ずっとその仕事を続ける、その仕事に飛び込んだら一生を捧げる
このように世代間の価値観がまったく異なっていると同時に、不安感が高まっているため
それを紛らわすため、アメリカでは薬物の使用率が非常に高くなっている
日本でも若い世代が台頭してきたものの、社会的な規範になじめないという実情があると聞く
私たちはそれに対処しなければならない
そして今、Z世代が
彼らは上の世代にとっては、まるで野生動物
彼らは「今、この瞬間」を生き非常に活動的で「今、目の前にあること」に夢中
彼らはあらゆるものの一部であり、何か1つの確かなものに興味を示さない
彼らにとっては、「これがだめならあれ、あれがだめならこれ」という感じ
それが彼らの社会を見る目に表れている
アメリカでは今、大学進学の割合が最も低いレベルにある
彼らは「大学教育なんか必要ない。コンピューターのプログラミングもできるし、ソフト開発だってできる」
団塊の世代とはまったく違う世界に生きている
かつても世代間ギャップはあった
しかし、テクノロジーが脳細胞や学習の仕方に影響を及ぼしたことで、世代間に自然な緊張関係が生まれた
そして、そのギャップはこれまでよりも大きい
1つの対処の仕方として、自分はどの<キャラ>が優勢なのか
周りの仲間たちはどうかと考えるようになると、とても興味深いことが・・・
自分の祖父母はどうなのか? 両親はどうか? 私たちの子どもたちは?
それぞれの優位な<キャラ>を見極め、自分の<キャラ>の表出をコントロールすることで
互いの間の溝を埋めることができると思う
2001年のアメリカ同時多発テロでツインタワーが崩壊した時、自動的に自分たちの生活圏のあらゆる部分に警戒警報が発令されたような状態に
そんなとき大事なのは、正直な気持ちをみんなで共有すること
子どもはとても敏感で、幼い<キャラ2>左の感じる脳はこの事態をうまく理解できていない
この感じる脳は、自分にとって危険だったことや、不安だったことを記憶することに長けている
そうしてこの先に起こりそうな危険を察知し、身の安全を守ろうとする
重要な役割ですが、行きすぎると何事にも不安が先行する
彼らに必要なのは安心感
今この瞬間、自分が安全であることを知る必要がある
そうすれば、過去に起こったことと、いま現在を区別することができ
過去のことをつねに考え、おびえる必要がないのだということが分かる
<キャラ2>を現在に引き戻して、自分は安全だと知る必要がある
父親は子供に「きみは安全だ。ぼくたちは大丈夫だ。そして、いつ悪いことが起こるのかと不安に思わなくていいんだよ」
と言ってもらう必要がある
ただ子供との接し方については、別な悩みも
家族やペットの喪失など
そんな時は子供にいい思い出を反芻(はんすう)させてあげる
そうして、彼女の<キャラ3>、右脳の感情を呼び出す
喜びを、今この瞬間に思い出させてあげる
もちろん「悲しい、つらい」と思うときもある
悲しみや嘆きの気持ちを一時的、ほんの90秒だけ持つことは悪いことではない
この一時的な感情の持続時間を、私は90秒ルールと呼んでいる
・・・3秒ルールじゃないのね
子供は「寂しくてたまらない」と、泣きながら言うかもしれない
そんなときは「うん、いままでと同じじゃないよね。家の中が違う気がするよね?」と確認し、痛みを共有し、家族の絆を深めて
そして話をする
彼のことをリアルに思い出して、今この瞬間によみがえらせる
悲しむことは悪いことではない
喜びと愛情をあなたと家族の<キャラ3>に植えつければいい
90秒ルールは、ある考えを思い浮かべた瞬間から感情回路を刺激し
それに対して生理的な反応が起こり、それが収まるまでの時間
例えば、怒りは神経回路の引き金になるものだと考えられている
ます。怒りを感じたときは、その神経回路が発動する
しかし通常その怒りは90秒で収まる
ただし、その同じ回路を何度も繰り返し刺激し続ければ、3時間も怒り続けることもできる
運が悪ければ10年たっても、まだそのループを繰り返して怒っている
そのルールを知っていれば、自分の感情を冷静に観察できるようになり
自分が走らせがちな感情回路を特定できるようになり
そして自分自身の感情回路を静観できるようになる
90秒ルールが当てはまるのは、怒りだけではなく
おなかを抱えて笑うのを90秒以上続けるのは難しい
ポジティブな感情であれネガティブな感情であれ、かなりの確率で90秒に収まってしまう
親しい人との永遠の別れにどう向き合う?
亡くなった若いご友人とお母さまのこと
親しい人との永遠の別れについて、あなたの脳の<キャラたち>はどう反応したのでしょう
友人は私の家で亡くなりました
彼女は28歳ごろに乳がんと診断され、8年間入退院や手術を繰り返し、最終的には、卵巣、子宮、乳房すべてを摘出した
それでも懸命に生きた
私たち友人のなかでも最も若く、みんなに可愛がられていた彼女は、亡くなったとき、まだ37歳
闘病中、私たちはあらんかぎりの方法で彼女をサポートし
彼女が亡くなる前夜、私たちは彼女に寄り添っていた
午前2時、彼女の息は荒くなり、胸が詰まって、死のガラガラという音がしはじめた
その瞬間、私はこのできごとを、自分の人生で最もトラウマになる瞬間<キャラ2>か
最も美しい瞬間<キャラ4>のどちらかとして、一生忘れられなくなるだろうと思った
そして「最も美しい瞬間」にするほうを選び、<キャラ4>になりきって
「あなたも私たちも大丈夫」と彼女の耳元でささいた
一瞬にして、彼女の息の深さが変わり、部屋の緊張が解けた
私たちは、みな、あるがままの現実を受け入れた
<キャラ2>の恐怖から離れ、<キャラ4>の叡智を自分のものにした
彼女は安らかな死を迎え、それは私たちにとっても大きな恵みとなった
そうして、誰かが
「箱(ボックス)パーティーをしよう!」
彼女は火葬を望んでいた
私たちは、その晩ずっと、心と魂と愛を込めて、棺を飾り付けた
彼女が好んだ明るい黄色を基調にした棺のいたるところに彼女の写真を貼り
よく訪れていたカリブ海沿岸のリゾート地カンクンを模して、紙で作ったヤシの木を一面に生やした
とてもきれいでした
私たちは泣き、笑い、音楽に合わせて、棺の周りで踊った
それからみんな一緒に火葬場に
彼女はスタートレックの大ファン
映画に登場するクリンゴン人を知っていますか
クリンゴン人は勇敢な戦士集団の異星人です
クリンゴン戦士が死ぬとき 他の戦士が吼える儀式が
仲間の死の間際に向こう側の世界にそれを知らせる
火葬のスイッチが押されたとき、私たちも全員で咆哮
それで、あの世は彼女が来ることを知ることになったはず
私たちは愛にあふれたとても強いつながりを感じた
素晴らしい経験だった
自分の<キャラ4>に心を開く
のちに、私の母が死を覚悟したときにも、彼女の存命中に同じことをした
愛の箱パーティーに、彼女自身も参加した
母が最後の息を吐いたとき、私の幼い<キャラ2>は泣き崩れるだろうと思っていましたが
驚いたことに、母の手を握っていた私の<キャラ4>は、部屋を見上げて微笑んだ
その後の数週間は喪失感や痛みにとらわれることなく、母のエネルギーのエッセンスを意識的に自分の中に織り込んでいった
悲しみの波が押し寄せてきたときには涙が流れるままにした
日常生活のなかで母がいないのは寂しいですが、私は母との宇宙的なつながりを強くした
悲しみ方は人それぞれ。私は、自分の<キャラ4>に心を開き、亡くなった人たちの<キャラ4>の存在を意識して心を開けば
その人たちと簡単につながることができることを学んだ
私たち人間が、この素晴らしい脳を頭の中に持っていることは、とても幸運
そして、脳細胞間で何が起こっているのか、細胞同士がどのように関係し、それが私たちの日常生活にどのような影響を与えているのかを知れば知るほど
この世界で自分がどのようにありたいかを選び取る力を大きくすることができる
私たちは、これまで教えられてきた以上に、脳の働き方を左右する力を持っている
自分には選択肢があるということがわかると、より良い決断ができるように
そして、より充実した人生を送ることができる
頑張ったら休むこと、急がないこと
私たちの壮大な脳は、何千億もの神経細胞でできていて、私たちがもつあらゆる能力は、その脳細胞が機能を果たしているからこそもたらされる
脳細胞が実際に働いているとき、私たちはこれらのユニークな能力によって、通常の生活を送ることができるが
脳に外傷が生じ、能力が損なわれたとき、例えば脳卒中を起こした場合などですが
ある特定の細胞グループが全滅してしまうことが
細胞が破壊されたり、傷ついたりすると、その細胞のもっていた能力がオフラインになり、症状が出る
例えば、失語症で言葉が理解できなかったり、手足に麻痺が生じたりする
外傷は脳細胞のレベルであることを認識することが重要
私たちは脳の神経可塑性によって学ぶ能力を持っている
その能力を発揮して、脳細胞が再編成され、エネルギーを補給できるようにするには、十分な睡眠をとることがとても大切
以前の能力を取り戻そうと気持ちが急きますが
脳細胞は急いでなんかいないということをしっかりと認識することが本当に重要
私たちは生きている
回復するためには、ただがむしゃらに頑張るだけではだめ
頑張ったら休むこと、急がないこと、それが再生のためにとても大切なことだということを心にとどめて長い目で力を取り戻して・・・
・・・分かったような
分からないような・・・
今日は~
テガタチドリ
5月の終わり
山で
道のわき
ほとんど気が付かない
化け物台風14号
列島を串刺し?
910hPa
って標高900mくらい
ど~なる?