2018年12月4日火曜日

介護の断面

ぼや川より
じいちゃんは・素面の時も・チドリ足
・・・歩けるなら・・・

そのまんま・・・
介護=ブラックは一般常識
2000年に介護保険制度が始まり民間に渡された介護は、一時は業界全体が潤っているように見えたものの、圧倒的な人材不足で人材劣化
施設内での虐待や窃盗、ついに2014年には殺人事件

私が2008年から2015年まで経営していたデイサービスでも、開業当初からまるで地獄絵図のような出来事が常態化し、結局は廃業せざるを得なくなった。私の事業所では「中年童貞」職員が跋扈し、職員同士のセクハラやパワハラは当たり前、逆恨みした介護職にストーキングされたり、失踪する女性介護職もいた。

介護は確かに重労働でキツイ仕事だ。その上低賃金という問題もある。外とのつながりの薄い、小さなコミュニティーのなかで安い給料で仕事をしていれば、人格が壊れたり、精神疾患になったりということもある。しかしそれにしても度を超えた酷すぎる7年間を振り返り、なぜここまでの惨状に至ったのかと考えていくなかで、ある介護フランチャイズの大手企業に思い当たった。

介護の「カ」の字も知らなかった私は事業開業前に、株式会社日本介護福祉グループの前身である(株)フジタエージェントが主催する「介護施設の管理者研修」を受けた。そこで私は施設運営のノウハウや介護を学んだと同時に、人手の足りない介護業界は、長時間労働が「当たり前」と示唆された。

その詳細はhttp://gendai.ismedia.jp/articles/-/48578で記事にしているので省略するが、人材が劣化した一因はこの介護ベンチャーが象徴しているのではないかと思うようになった。

当時、グループの代表取締役会長を務めていた藤田英明氏は「介護業界の風雲児」と呼ばれ、民営化した介護業界のカリスマ的な人物であった。だが一方で自己啓発セミナーまがいの「ポエム」で人材を集める「介護甲子園」のスポンサーであることを知り、疑いを深めた私は取材を重ね介護職への「ポエム採用」の実態に迫るルポを書いた。

今年に入ったある日、その藤田氏から「介護業界はもう末期的な状態です。今のままだと立ち直りようがない。自分の力だけではどうもならないので距離を置きます」という連絡が入った。あれほどまでに「介護から日本を元気に」と言っていた藤田氏にどんな心境の変化があったのか、彼の話を聞くことにした。

白紙の履歴書が送られてくる

中村 国民の3人に1人が65歳、5人に1人が75歳となる2025年問題は、もうずっと日本の課題として認識されてきた。そのために国は2000年4月に介護保険制度をはじめて、超高齢社会を迎えるための準備をしようと頑張ってきたけど、もう限界です。異常な人手不足を筆頭に問題だらけ。

藤田 今の介護業界を取り巻く環境は、あまりに酷い。人材が集まらない上に、たまに履歴書が送られてきてもプリクラが貼られていたり。名前だけの白紙の履歴書とか、エンピツ書きとかザラです。応募があったから丸1日面接を組んでも、誰1人来ないとか。それでも人手不足だから、能力に期待せず誰でも入れざるを得ない。それが嫌ならば、施設をたたむしかない。そんな状況です。

中村 藤田さんを含む介護ベンチャーの経営者層は人材不足に焦り「低賃金」「重労働」を「夢」や「絆」に置き換えて、従業員のやりがいを搾取する「ポエム採用」に乗りだした。しかしそれも通用しなくなって、焼け野原みたいな現在があると。当時のその「人の集め方」について藤田さんは今どう思っているの?

藤田 当時はマスコミの過剰な報道によって浸透した「介護は3K」という一般的なイメージを払拭するのが目的だった。ただ、3Kであることは事実だし、そんなことをしても人材が確保できない上に、2015年には介護報酬の本格的な削減が始まって、このままでは社会保障としての介護は本当にダメになると思った。

「介護甲子園」は確かにイベント創設時のスポンサーではあるけど、お金を出して欲しいと頼んできた主催者が「感謝、感激、感動」などの稚拙なキラキラ言葉を駆使した宗教紛いのイベントをやるとは思っていなかった。ご指摘の通りにポエム的な採用をしてきた僕自身も、あれは気持ち悪いし、正直一緒にしてほしくない。

写真はイメージです(Photo by iStock)
当初は介護業界を元気にして、介護職たちの技術向上になればという気持ちからスポンサーになったけれど、結果として人材の質が上がるワケでも、業界全体が潤うワケでもなかった。それどころか年々酷くなるばかり。それを実感したから僕個人だけ方針転換した。続けるのは無理だと思ったんです。

中村 彼らが介護職を思考停止させて低賃金で働かせることを目的に「高齢者のありがとうが報酬です」みたいな方向に持っていきたいのは、もう透けて見える。

藤田さんを含むベンチャーの経営者層が、自己都合で苦し紛れな美辞麗句をまき散らした結果、介護に集まってくる人たちも一定数いたのは確か。介護は人が人を支援する仕事だから、入所者と介護職が疑似家族みたいになりがちで、チームワークで業務が成り立つ部分も多く、希望や絆といった綺麗な言葉と相性がよかった。思惑通りに“夢”とか“スイッチオン”とか“未来を創る”といったポエムは今でも蔓延している。

藤田 稚拙なキラキラ言葉で集まるのは、意識高い系やメンタルの弱い人が多い。面接でどうして介護をやろうと思ったのかを訊くと、「おばあちゃんと接していると癒されるんで」みたいな。いやいや、君が癒されるために仕事をするんじゃないんだよって。そういうレベル。

中村 このままでは本当に介護崩壊すると伝えているけど、大きな理由の一つは精神的に難を抱える介護職が多すぎること。

以前僕が運営していたデイサービスでは、カッとなってすぐに暴力をふるう男性の介護職や、突然失踪した女性の介護職などさまざまいて、彼らに振り回され続け疲弊し生き地獄を見た。

不健康な人は自分のことで精一杯なのと、安定して規則正しい生活を送れないので、高齢者の生活をつくる介護には向かない。

僕の実感だと、不健康な人は全体の少なくとも1割、多かったら3割くらいはいるでしょう。いま介護職は約170万人いると言われています。その3割だとすると最大推定約50万人だよ。

藤田 介護保険前は行政が介護が必要と認めた人に対する行政処分として介護サービスを提供する、措置制度が敷かれていた。職員の給与は租税方式で徴収した税金でまかなわれ、給与も公務員に準ずるくらいの賃金だった。

けれども、2000年の規制緩和で民間に介護が渡されると、ニチイ学館、コムスン、ベネッセ、メッセージといった企業が事業展開、さらに不景気の煽りをうけた「介護」を知らない経営者をはじめあらゆる人たちがどっと参入した。

そうなると、当然人材が足りなくなる。事業をまわすために、誰でもいいから採りたいという経営者側と、介護職の基準に達していない人材が集まり劣化した。

中村 2005年あたりまで介護保険制度にあやかる、ヘルパー2級の資格ブームがあった。介護にたくさんの人が興味を持ったのに、介護業界は高齢者の生活の質の向上を煽るばかりで介護人材を大切にしなかった。介護職を使いたおし潰しまくって、産業として発展する大きなチャンスを逃した。

措置制度時代の優秀な福祉人材や、介護に興味を持った一般人たちは、その状況にうんざりしてみんな逃げた。もう今の惨状は自業自得。その後は不景気による失業者と不健康な人たちが入職者のメインとなって、今は彼らが介護現場の中心になっている。

藤田 ヘルパーはハローワークの支援制度を使えば無料で取れる上に、要件を満たせば受講給付金までもらえる。つまり国がお金を払って量産したヘルパーたちが2009年あたりから出始めて、その後介護福祉士、実務経験の5年をつんで今はケアマネジャーになっている。

そもそも介護職を目指して業界に入った人たちじゃない、「介護をする」ということに興味のない人たちが、現在ケアマネジャーをやっている事態。だからまともなケアプランを作れない。そういう問題も起きていますね。

元株式会社日本介護福祉グループ代表理事会長の藤田英明氏
中村 ケアプランが作れなければ、現場も機能しない。いまやそんな量産された人たちが専門学校や初任者研修の講師をしている。量産された人たちの中には、もともとケアに対する意識が薄い人たちも多い。ケアへ心構えのない人たちが教えれば当然、同じタイプの介護職がさらに増える。介護に向かない人材の量産体制が常態化する。

藤田 介護保険制度が敷かれる以前の措置時代にいた人たちと現在の介護職とでは、本当に人材の質はまるっきり違いますよ。昔の介護職は介護職になりたい人たちが大半だった。だから勉強もする。自分のスペックを上げようとする姿勢があった。今はそんな話はほとんど聞いたことがない。

中村 国の雇用政策が大きく影響したね。国が介入した瞬間から産業に歪が生まれて、最終的に崩壊まで壊れる一部始終を初めて眺めて驚いた。ビフォーアフターで本当に全然違う。

介護現場は社会保障費の削減という国策に巻き込まれ、失業者の生活保護の代替として利用された。それが決定的な原因となって、絶望的な現状を迎えてしまった。もうやり直すには規模が大きすぎて動かしようのない状態にまで陥っている。

若者はみんな逃げるべき

藤田 僕個人が起業した2004年ごろから3年くらい前まで、介護業界の発展のために「若者を介護職へ」と謳った。それは最初、自社のためではなく、社会にとって本当によいと思ってやっていた。

けど少子高齢化で、生産人口が少なくなるなか、日本はGDP600兆円が目標と言う。「国の売上」を上げていかなければならないのに、若者を生産性のない介護で働かせていいのかって自省的に考えるようになったんだよね。

中村 国は1ヵ月暮らしていけるレベルの賃金を介護職に支払うつもりはないでしょう。若者はこれから何十年も働かなければならないので、本当に介護職はやめた方がいい。自分の人生潰すことになる。

やり直しの利く20代の介護職は全員、今すぐに辞めたほうがいいし、介護を専門にする学生だったらお金を返してもらって他業種の養成学校に転校したほうがいい。若者は生産して納税するのが社会貢献だよ。

藤田 僕もいまの現状を見る限り若者に介護職は勧められない。でも介護職の人手不足は何とか解決しないといけないのも確か。そんななか、外国人技能実習制度に介護職種を加えることが決まった。働きながら日本の介護職の技術を学び5年したら帰国するという建前で11月にベトナム人が1万人くる。

中村 失業者の次は、本格的な外国人の受け入れですね。2008年からの経済連携協定(EPA)では、候補者は人材マッチングにより選定され、訪日前と後に半年~1年程度の日本語研修経てやっと受け入れ施設で働くという厳しい基準があった。

でもこれから始まる外国人技能実習制度は、発展途上国地域の経済発展の人づくりに協力するという趣旨で見直された制度で、日本語のレベルも低く政府のバックアップ体制もない、つまり簡単に言えば労働力になってくれる外国人は誰でも受け入れるという制度。

日本語がほとんど話せない外国人が慢性的に忙しい介護職に就いたら現場はさらに混乱する。労働組合は賃金のさらなる低下を危惧して外国人の受け入れに反対だし、保守系の人は未来の日本に日本人がいなくなると憤る。

2016年にはこの制度を使って日本に入国した中国人が5年間で1万人も失踪、不法残留や資格外活動をするケースも多いと話題になった。実習生は人件費が日本人と比べて安いことから、空き巣などの窃盗罪で逮捕されるケースも多いという。

藤田 介護業界の一部の“意識高い系”はセミナーとか、コミュニティカフェをやっていて、そこで僕が介護業界が直面している問題を投げかけても、彼らは基本的に介護業界の惨状は見たくない、聞きたくないといって話をずらす。「どこにも問題はないこと」が基本姿勢です。

さらに自分たちは素晴らしい、介護は素晴らしいといった自画自賛の話ばかり。目の前には問題が山積みなのに業界内ではそれを誰も議論しない。介護業界全体にそんな雰囲気が漂っています。

中村 2014年には神奈川県川崎市の有料老人ホーム「Sアミーユ川崎幸町」で起こった連続殺人事件は、介護業界の問題が凝縮した大事件だった。逮捕された今井隼人容疑者は同所で認知症高齢者3人を突き落とし殺害。今井容疑者は施設内で窃盗したとして、この事件発覚前に解雇されている。

写真はイメージです(Photo by iStock)
「Sアミーユ川崎幸町」は慢性的な人手不足のため、入所者80人を2人でまわす勤務体制や15分単位で刻まれたスケジュールで現場をまわすなどの労働環境に関する問題点もあった。

でも、こんな大事が起こっているのに、僕の実感として介護関係者は誰も当事者の意識を持っていなさそうに見えた。人が殺されても何事もなかったようにキラキラした意識高いばかり話を続けて、行政もそれに乗っている。業界全体が思考停止する間に、また3人が殺された疑いのある「それいゆ」事件が起こってしまった。いったい何人殺されたら、彼らは現実を見るのだろうか。

藤田 虐待されようと、人が殺されようと、現実に正面から向き合おうとすると、介護業界全体から排除される。同調圧力もあって、業界を挙げてみんな汚い現実に蓋をするし、大きな問題からは徹底して逃げる。最近は現実をみないとダメだよって声をあげているけど、介護業界の人たちは本当に興味を示してくれないですね。

東京が認知症だらけになる

中村 介護は人材がすべて。それが崩壊したので、事態は深刻ですよ。儲からなければ産業が潰れちゃうのは仕方がないけど、介護は社会保障なのでそうはいかない。超高齢社会を考えると、介護にかんしては高齢者が諦める、高望みしないことが最優先なんじゃないかなって思う。

藤田 それは当然ある。でも国は、要介護になった高齢者をもう一度自立できる状態に戻し、施設への介護保険給付費を減らすという「自立支援介護」に方針転換している。

高齢者を地域で支える取り組みを全国に先駆けて始めた「和光モデル」、介護予防で成果をあげている市区町村を優遇する「財政インセンティブ」、日本の介護技術やケアシステムをアジア諸国の地域に輸出する官民連携のプロジェクト「アジア健康構想」と色んな計画と思惑が絡み合って、色んな人が机上で夢みたいなことを語っている。

「自立支援介護」は高齢者に対して「自分でやってもらう」ということではない。例えば排泄がうまくできないためパッドを使用している高齢者に対して、その高齢者が尿意をもよおした時、パッドを使わずトイレまでどうやったら辿り着けるのか、その方法を考え個々人の状態に沿ったケアプランを考えていくというのが本旨。介護職のスキルや倫理が求められる。

深刻な人手不足で、かつ、まともなケアプランを作れる優秀な人材がいない、その上介護報酬まで削られるとなると、どう考えても現実離れしたプランにしか思えないし、実現できるわけがない。ちなみに人間の状態をよくするのは医療の領域で、介護ではないですよ。

中村 今の介護現場は本当に仕事に対する意識も能力のレベルも低い人が多いので、時間通りに出勤して誰とも喧嘩をしないで一日平穏に終える、ことすら危うい。

藤田 現在、介護職の就業者数はおよそ170万人もいと言われてる。彼らが失業するとなると社会的なインパクトも大きいし、これからも高齢者はどんどん増え続ける。もうやり直す余裕ない。

さらに社会保障の縮小、社会保障費の削減に国が必死になっているので、高齢者に対するケアの体制が整う状態に立ち直るのは本当に難しい。今は要支援1、2が保険適応外で、要介護1~要介護5までを保険でみようってなった。

今の介護人材の質や人手不足の状況を考えたら要介護1、2の認知症高齢者を介護保険でみるのは難しい。本当に丸くおさまる案がない

村 そもそも介護保険制度は、誤解を前提とした制度設計。実際はまだ歩ける認知症高齢者の要介護1、2の介護が一番難しい。要介護4、5のように寝たきりになっちゃえば、徘徊をしないので介護はしやすし、労力も少ない。

今の介護保険制度では要介護1、2の支援は継続になっているけど、これから近いうちに要支援だけではなく、要介護1、2までを切ることも充分ありえる。要介護3~5だけが介護保険適用になるという。

藤田 要介護1、2を制度から切り離したらそれこそ社会全体が大変なことになりますよ。

以前、要介護認定の厚労省の担当者に実際は歩ける認知症の人が一番大変、だから認知症の介護度1、2を高く評価して社会保障費をあげないと、実態に合いませんよって伝えた。でも厚労省の人には認知症高齢者の介護の実態が伝わらない。「歩ければ、移動が楽でしょう」というまったく危機感のない返答だった。

中村 寝たきりの高齢者こそ縮小して在宅、歩ける認知症の多い要介護1、2を重点的に施設介護するほうが合理的だし、理に適っている。

藤田 重度の人はヘルパーが訪問してそれこそ入浴や食事、排泄介助をすればいいだけだから、在宅でいけるよね。

中村 計画通りに将来的に要介護1、2を制度から切り離したら、当然の結果として街中が認知症だらけになる。本当に大変なこと。路上に遺体が転がるし、車の徘徊で子供が殺されるし、線路には高齢者が自宅を求めて彷徨う…といった絶望的な状況が常態化する可能性すらある。冗談ではなく、国の機能が麻痺するよ。

藤田 2020年のオリンピックのときは、もう東京が認知症高齢者で溢れかえり外国人が衝撃受けることも考えられます。大袈裟ではなく、身元のわからない高齢者の死亡のニュースが連日連夜報道されることもありえる。

ただこの状況を変えていこうとしても、本当に手がない。その現実は介護関係者ならば簡単に想像がつくはずなのに、わかっていても、臭い者には蓋、見ないようにしているか、言わないようにしているか、考えないようにしている。もう本当の崩壊に向かっていますよ。

国が高齢者を民間に捨てた介護保険制度が始まって以降、業界に市場原理が持ち込まれ、介護ベンチャーの経営者たちはこぞって高齢者の生活の質の向上ばかりを煽った。その結果、膨大な介護職たちが低賃金と重労働で使い捨てにされ、人材の質が凋落、もはや介護現場は崩壊し、現在進行形で高齢者殺害の事件や死亡事故が頻発している。

そんな深刻な状況下で介護保険の制度縮小は刻々と進み、現在ではそのターゲットが介護職から高齢者へと移っている。まず手始めに介護度の軽いとされる歩ける認知症高齢者が切り離された。2015年、特別養護老人ホームの入居基準がこれまでの要介護1から介護度3以上に改正され、さらに2016年からは要支援高齢者を切り捨てるという議論が進んでいる。最終的には要介護2までのすべての軽度高齢者を切り離し、介護度が重度とされる、寝たきりの高齢者だけを「介護」とすることが最終目標と言われている。

要介護1、要介護2の認知症高齢者を制度から切り離せば、街は徘徊老人だらけになる。その結果、なにが起こるかは考えるだけでもおそろしい。

さらにそれだけでなく、今後の要介護高齢者は経済的にも厳しい現実が待っている。高齢者の自己負担割合が従来の1割から2割と倍増、2018年8月には、さらに2割から3割への負担を強いられることが決まっているのだ。

これから要介護高齢者は経済的に絞めつけられる。2015年4月の改正で一定所得がある高齢者の自己負担割合が1割から2割に倍増し、来年8月にはさらに2割から3割への値上げとなる。高齢者の自己負担の急激なアップによって、金持ち以外は介護サービスが受けられない。その結果、介護離職、老老介護は、さらに深刻な事態となる。もう、日本の超高齢社会には希望がみえないのだ。

デイサービス大手・株式会社日本介護福祉グループの創業者であり、介護業界の風雲児と呼ばれた藤田英明氏は「(介護は)本当の崩壊に向かっている」と深い溜息をつく。

生活も人生も潰して、尽くせと言うのか

中村 介護の人材確保は事業者を超えて、最近は都道府県や自治体でも盛んに行われている。

介護サービスを利用する高齢者とその家族、介護職を支援し、介護に関わる人たちと地域社会の交流を深める名目で「いい日、いい日」とかけた11月11日を「介護の日」と制定し、11月4日~17日までを「福祉人材確保重点実施期間」として介護職普及のためのイベントを開催。”やりがい発見”や”好きを仕事に”といった、キラキラ系のポエムで税金を使って煽っているね。

(写真はイメージです※Photo by iStock)
さらに厚労省が就職活動をする高校生などをターゲットに、事業所でボランティア活動をさせたり、小中学校と連携して介護の「体験型学習」を盛り込んで啓発したり。問題まみれの今の介護現場に、子供を誘導するとかありえないでしょう。子供の人生まで潰そうとしている。本当にやめて欲しい。

藤田 でも僕の実感としては、そういった人材確保イベントに学生がほとんど来ていない。学生や親、進路指導の先生は今の介護職に将来性のないことをちゃんとわかっているのが救いです。この現状を見たら、やっぱり若者は他業種に行くべきです。

でもそうなると、危機的な状況に陥る介護はどうなるのか。担い手がいないということは、乱暴な言い方をすれば高齢者を社会の枠組みから切り捨てるということ。そこで僕が思ったのは、もう介護職は地方公務員にするのがいいのではないかと。

中村 つまり介護保険制度の解体ですか。高齢者を民間から引き揚げて、全員を措置時代のように都道府県と自治体に戻してしまうと。数年前までベンチャー企業の経営者として新自由主義を掲げて、介護はすべて民間、社会福祉法人を潰せとまで言っていた人の発言とは思えない(笑)。

藤田 人材不足、質の劣化に加えて介護報酬もさらに減らされる。近年では介護事業所の指定取消処分が過去最多というニュースもある。それほど危機的な状況です。

でも介護という社会保障を崩壊させるわけにはいかない。もともと、措置制度が廃止されたのは、国と自治体が社会福祉サービスを提供することが財政的に困難になったこと、介護度の実情や希望に沿ったサービスができず画一的な介護しか提供できなかったことなどが要因でした。

だからこれからは、介護職を地方公務員が担い、事業者は民間で運営するという官民共同の新しい形がいいと思う。そうすれば、事業者はサービスに特色をだせるし、地方公務員として介護職の人材も確保できる。事業所運営の方針やコントロールの権利は自治体のやりやすい方法に任せれば成り立つよ。

中村 今後どう高齢者を支えるのか、もっと抜本的に枠組みを作り直さないと乗り越えられないってことだよね。今までの介護保険は高齢者には至れり尽くせりだった。このまま社会保障費を縮小するなら、それ以上に高齢者に対するサービスも縮小しないとバランスがとれない。

藤田 介護保険制度が始まって民間に渡された直後の介護業界では、競争原理が働いて、各事業所が至れり尽くせりのサービスを展開した。

僕もお泊りデイサービスで散々な批判にあったけど、正直、安い賃金で介護職が自分の生活を潰して高齢者を見守るなんてザラだった。でも、結果として残ったのは今の絶望的な介護業界と介護現場、そんな現実があるので、高齢者には質の高いサービスをある程度諦めてもらうことが必要。

質はどうであれ、今は人が足りないし適正がある人が極端に足りない。虐待が増えているし、これからも間違いなく激増するでしょう。もう入浴、食事、排泄介助の最低限の介護だけで合格点を与え、それ以上は基本的には望まない。目標を低く設定しないと本当に乗り越えられない。乗り越えられなかったら死に直結するし。

中村 いま、国が取り組んでいるのは高齢者に最高のサービスを提供しながら、介護職の人件費を限界まで下げたいということ。要するに現役世代の介護職は高齢者のために自分の生活も人生も潰して欲しいという要望で、それが思惑通りに現実になってしまっている。

その歪みが、介護職が精神を病む現実を生んでいる。介護業界は日本の貧困問題を牽引する存在になっているし、女性介護職の風俗流出や売春は止まらない。とんでもないことになっている。

藤田 高齢者のために現役世代が人生を潰さなくてはいけない状況は本当に異常です。厚労省は、現在の都合のいい方針が無理と気づかない限り、なにも手を打たない。

今年(2017年4月)から介護職員に対して月1万円アップの処遇改善加算の拡充がされたけど、それもいつまで続く施策なのかわからない。1万円でなんとか丸くおさまってくれるのでは? という期待もあると思う。

中村 こう話していくと、介護保険制度は完全に失敗だね。特に介護職を追い詰めるのは、もう限界だと気づかないと本当にまずい。国民の介護保険料の支払い拒否や、介護職の大規模な暴動なんて、シャレにならない事態に発展する可能性もあるよね。

特にひどいのが「サ高住」

藤田 でも最近は省庁や事業者のいろいろな思惑が絡み合って、人材だけの問題ではなくなっている。特にサービス付高齢者住宅(サ高住)は、かなり最悪な結果となっている。

サ高住は60歳以上の高齢者や要介護認定を受けた高齢者を対象にした賃貸契約(※なかには賃貸以外もある)の住居で入居者は「一般型」と「介護型」に分かれる。平成23年の「高齢者住まい法」の改正で創設され、介護と医療を連結させたバリアフリーの住宅です。国交省が所轄で料金は特別養後老人ホーム(特養)とほぼ同じ。

特養は、社会福祉法人や地方公共団体などが運営する公的な養護施設で、65歳以上、要介護3以上の高齢者が対象。自治体の審査に基づいて入居が決まるから、介護が必要な場合もすぐに入れるとは限らない。

中村 サ高住のおかげで約50万人いた待機老人問題は、あっという間に解決してしまった。ただ、サ高住は住宅であって基本的に介護は行われない。だから病院関係者は「高齢者をサ高住に戻すと、すぐに死んじゃう」みたいに嘆いているよね。サ高住によって日本の平均寿命を下げるつもりかも、という話を最近よく耳にする。

藤田 サ高住は高齢者の囲い込みビジネス。住宅を提供して囲った高齢者に介護保険の支給限度額の満額を使い、さらに医療保険を使って在宅医療、訪問看護を入れて診療報酬も使う。高齢者1人に対して特養でかかるお金より、圧倒的に費用が高い。めちゃめちゃお金を使っている。

(写真はイメージです※Photo by iStock)
全体の具体的な数字は出てきてないけど、要介護5の介護保険支給限度額は36万円程度。特養の上限も同じくらい。特養は施設に医者も看護士もいるから、その金額ですべてを賄う。

でもサ高住は高齢者を囲えば請求は自由なので、介護保険上限36万円を使い、さらに医療保険も入れる。在宅医療と訪問看護が仮にそれぞれ15万円だったら、総額66万円ですよ。特養の倍近くになる。
村 サ高住はとんでもなく増えていて、今年6月時点で6668棟、21万8195戸。サービスが始まった2011年からたったの6年間で、なんと60倍以上になっている。

藤田 特養に入れない待機老人をとりあえずサ高住に入れれば、介護難民を解決できるし、給付が減るという建前でゴーサインがでた。国交省の目論見は大きく外れた。たぶん、事業者に隙間をつかれた感じじゃないかな。サ高住には不動産会社や建築会社が群がったし、みんな金のことしか考えてないからね。

中村 人がいれば金になる。高齢者は金になる。その取り合いだ。

藤田 いや、意外とそうでもなくて、相対的貧困層の高齢者がどんどん増えている。多くの収入は年金の6万円~12万円。その層が要介護になると行き場所がないから、サ高住を建てれば次々と生活保護者として入ってくる。生活保護受給費よりも年金のほうが高い、だから残りの差額を生活保護からもらう。介護業者は生活保護者を見込んで建てている。

中村 無駄な介護医療で社会保障費を圧迫し、介護報酬が下げられる。そして介護職が貧困になる。貧困者だらけの産業に、誰も寄り付かなくなる。こんな負のループが起こっている。

きれいごとの裏の「姥捨て山政策」

藤田 2018年の診療報酬と介護報酬のダブル改定を控えて、介護業界が大きく変わる可能性がある。大きなテーマは費用の削減。高齢者には介護保険を使わせない、介護職の賃金はさらに下げると言われている。

中村 介護保険は、乱暴な言い方をすれば国が高齢者を切り捨てる「姥捨て山」の施策だった。2000年に介護保険によって国が都道府県に高齢者を渡し、ついに要支援高齢者の制度切り離しで市区町村に厄介払い。さらに地域包括ケアシステムを構築して、要介護1、2まで市区町村に渡す流れ。めちゃくちゃですね。

藤田 自治体が高齢者の面倒を看ることはできないので、地域に押しつけられる。要は互助でやってねということ。介護事業者には障がい者も子供も一緒に過ごしてという共生型を提案して、介護職の報酬のないボランティア型デイサービスというのもできた。

中村 今までは介護職が貧困にどこまで耐えうるか見ていたけど、最低賃金すら払いたくないし、そろそろ限界なので市民の良心で社会保障費を削減しようという試みですね。歩ける認知症が多く最も介護が大変な要介護1、2を地域の住民が面倒みるのは無理。どこの地域でも不可能でしょう。

藤田 資格にも手は伸びていて、介護福祉士を持っていたら保育士の資格取得を簡単にするとか。今の介護現場は虐待や窃盗などが横行している施設も少なくない。そういった人材が集まりやすい環境に子供たちが置かれれば、どんなことが起きるのかは明らか。最悪の場合、子どもが命を落とすことにもなりかねない。非常に危険です。

中村 現在の介護関係者は、そんな無謀な方針でも綺麗な言葉に乗せられて「素敵!」と盛り上がっているでしょう。介護という職業は素晴らしいという洗脳がされているから、適切な反応や現場からの声がない。だからノンストップでおかしな方向に進む。

藤田 これから、介護を経済戦略に利用する「アジア健康構想」も本格的にはじまる。これは介護施設を現地につくり、人材育成のノウハウや介護機器を輸出して、アジア全域で介護市場を拡大する官民一体となった政府主導のプロジェクト。外国人技能実習生をいったん日本の介護現場で働かせ、5年経ったら事業所ごと海外に移すといった取り組みです。

各国との政府間協力では地域包括システムの構築や日本への介護留学生を増やし、海外展開しようとする企業とマッチング。民間事業への支援は介護関連海外事業の資金調達の円滑化などが概要にあげられている。

中村 このプロジェクトで外国人技能実習生をどんどん入れることが決まっているでしょう。プロジェクトの中枢には、藤田さんも深いかかわりのあるブラック介護企業の経営者A氏もいる。彼は介護という社会問題を利用して、金になりそうなところには本当にどこにでも顔を出してくる。

介護現場は、人材の劣化に加え、虐待どころか殺人が横行しているひどい有様なのに、なにを輸出するのかと思うし、A氏がまた介護職の屍を生むのかと思うと憂うつになる。もう、介護現場で人間が破壊される悲劇は見たくない。それに技能実習生たちに「奴隷介護労働をさせられた」って言われて国際問題になったらどうするのだろう。

藤田 今までの経緯を見れば、ブラック労働をさせるのは明らかです。A氏は中間団体を作って人材ブローカーになってボロ儲けすることが目的。ブラック介護経営者も続々と出てくる可能性はおおいにある。

介護職の不人気から国内ではもう人材採用ができないくらい人が集まらない。経営者として事業所を続けるには海外に逃げようっていう本音が透けて見えます。

中村 介護現場崩壊、高齢者の押し付け合い、異常人材難、さらに無駄な社会保障費を垂れ流し、挙げ句に無条件に外国人をどんどん受け入れる、ブラック労働の輸出と。なんか、とんでもない話になりましたね。

藤田 来年の診療報酬、介護報酬の同時改定で、介護は本当にとんでもないことになりますよ。介護職と高齢者がさらなる犠牲を強いられることは間違いないし、このままだと日本は本当に暗いですね。

・・・元気が一番
倒れたら・・・楽に死なせて

今日は~
セッコク/Dendrobium moniliformeお局さま
の狂い咲
11月末
まだ、お便所で咲いてる
・・・マツハリランが同居してるんで
ほかのセッコクより先に避難
これは取らずに・・・いつまで咲いてるか?



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