2024年8月18日日曜日

貧困固定時代

スキマバイトは一度始めちゃうとやめられない地獄
ウーバーイーツの配達とスキマバイトで暮らしているシンゴさん
スキマバイトを増やしたいが、現在はアカウントの利用停止中

現代の日本は、非正規雇用の拡大により、所得格差が急速に広がっている
いったん貧困のワナに陥ると抜け出すことが困難な貧困強制社会
シンゴさん(仮名、52歳)と出会ったのは、日中の気温が35度に達しようとするある夏の日
市民団体が生活困窮者に食料を無料で配布している公園だった
ウーバーイーツの配達とスキマバイトで生計を立てているというシンゴさんはおにぎりやクラッカー、バナナなどのセットを受け取ると、自転車で公園を出ていった
ウーバーの配達に出かけたのだ。小一時間ほどで戻ってくると、カーキ色のTシャツが大量の汗で色合いが変わっていた。面倒見のよいシンゴさんはその後は公園にとどまると、来場者の生活相談にのっている。真夏の配達は熱中症が心配ですねと話しかけると、シンゴさんはこう答えた
「本当はもっとスキマバイトを増やしたいんです。でも、今、仕事をキャンセルしたペナルティでアプリのアカウントが利用できないんですよ」
シンゴさんはもともとはウーバーの配達だけをしていた
しかし、報酬体系の変更のせいで収入が減る一方だったのでスキマバイトとの掛け持ちを始めた
ところが、半年ほど前、配達からの帰り道に自転車が転倒して鎖骨を骨折
その後、肩の痛みからいったんマッチングしたスキマバイトの仕事をキャンセルすることが続いてしまった
シンゴさんが利用しているスキマバイトのアプリはタイミー
ここでは働き手が仕事を直前にキャンセルすると、原則理由に関係なくポイントが課される
ポイントは「24時間前4ポイント」「4時間前7ポイント」など始業時刻に近いキャンセルほど高く、8ポイントに達するとペナルティとして2週間アプリを使うことができなくなる
「引っ越しとか、荷物搬入とか体を使う仕事に応募することが多いんですが、前日になって痛みがぶり返してしまって……。それ以外に風邪で休んだこともあったので」

ちなみにウーバーイーツ配達員の業務中の事故について説明すると
サービス開始当初は個人事業主だという理由で基本的に補償はなかった
しかし歩行者にけがを負わせたり、配達員が死亡したりといった事故が続発
労働組合であるウーバーイーツユニオンが声を上げたこともあり、現在は一定の傷害補償制度などが提供されている
ただシンゴさんは「自分は帰宅途中の事故で(対象となるか)微妙だったので、問い合わせはしませんでした」
結局医療費はすべて自費で賄った
約4万円の家賃を含めると毎月11万円は必要だというシンゴさん
タイミーの利用停止中はたとえ猛暑日続きでも配達に精を出すしかないというわけだ

シンゴさんは、タイミーの仕組みには不満もあるという
というのは企業側からの一方的なドタキャンも少なくないから
この1年で10回ほど、前日になって「企業都合のキャンセルです」という内容のメールを受け取り、予定していた仕事がなくなった
シンゴさんは自分の推測なのですが
「募集要項によく『学生さん、女性歓迎』って書いてあるんです。会社は自分らのような中年をとりあえずキープ。若者や女性が集まったら、切り捨てているんじゃないでしょうか」
突然キャンセルされて困るのは企業側だけではない
シンゴさんは「こっちも予定を空けていますし、収入も当てにしています。企業都合ならせめて賃金の半分は補償してほしい。自分らだけがぺナルティを課されるのは不公平です」
また、約束の勤務時間に応じた賃金が払われないこともあったと
荷物搬入の仕事で、勤務は午前9時~午後7時だった
しかし、実際には作業は午後4時に終了
支払われた賃金は実働分のみで、金額は当初見込みの6割にとどまった
このような場合、法律は原則平均賃金の60%以上を休業手当として支払うよう定めている
手当の未払いは法令違反の可能性があるが、私がさらに驚いたのは、このときの雇用関係の複雑さ
シンゴさんによると、この日はある運送会社の指示のもとで働いたが、雇用主は別の派遣会社
運送会社が派遣会社に労働者の派遣を依頼、派遣会社がタイミー経由でシンゴさんを雇ったのだ
シンゴさんが運送会社の社員に給料について尋ねたところ
「派遣会社には人件費は満額払ってるから、もらえるんじゃない?」
派遣会社が賃金の一部をピンハネしたのだろうか
そうでなくとも雇用関係が複雑になると、責任の所在はあいまいになりがちだ
タイミーに確認したのかと尋ねると、シンゴさんはこう言って首を横に振った
「タイミーの怒りを買いたくないので聞いてません」

私は最近、スキマバイトの問題を取材する機会が増えている
企業側のドタキャンや休業手当の未払いという事例はほかの利用者からも聞いた
ある人は「タイミーに訴えたら休業手当は払われました。でも、その後、その会社からの募集はピタリとなくなりました」

シンゴさんは自身の家族について多くを語らなかった。ただ体罰が当たり前の家庭で、高校卒業後は家出同然に実家を離れた
一時は正社員として働くも、法律が規制緩和されて派遣で働ける職種が増えた後は派遣労働に就くように
「最低賃金同然の時給が多くて、深夜割増が払われなかったこともありました。派遣のリーダーも任されましたが、手当をもらったことはないですね」
寮付き派遣では雇い止めと同時に住まいを追い出され、ネットカフェ暮らしを余儀なくされた

この間、2度ほど生活保護を利用して生活を立て直した
しかし申請のたびに自治体はシンゴさんの意思に反し、親族に支援ができないかを確認する扶養照会を強行
そのせいで長年絶縁していた兄弟が突然自宅に現れた
シンゴさんは生活保護は二度と利用しないと決めたという
最後のセーフティネットを奪われ、シンゴさんは次第に追いつめられる
まずガス料金が払えず、利用をやめた。食事は1日1食にしたが、水だけでしのぐこともあり、1カ月で体重が7キロ減った
治療費を工面できないので前歯は欠けたままだ

派遣を含めた非正規労働の給料の支払いは翌月以降であることが多い
その日の食費にも事欠いていたシンゴさんがウーバーの配達を始めたのは、報酬が週払いだったからでもある
さらに食料配布の会場で同じく貧困状態にある人と話をする中で
「スキマバイトはその日にお金をもらえる」と知り、飛びついた
給料の即日払いはスキマバイトの売りのひとつ

スキマバイトで生計を立て始めると元には戻れない
その仕組みに不信感を抱きながらも従わざるを得ない日々を、シンゴさんは自嘲気味にこう表現した
「一度始めちゃうとやめられない地獄。まあ自己責任だといわれるでしょうが」

 話は変わるが、国会中継を見るのが趣味だというシンゴさんとの話は楽しく、興味深かった
ただ一つだけ、聞き流せないことがあった
どのような公助が必要かと尋ねたとき、シンゴさんが「外人に10万円を渡す前にまず日本人を助けてほしい」
ちなみに外人には仲間以外の人、などの意味もあるので、私たち記者は外国人という言葉を使う
そのうえで外人とは? と問うと、「埼玉のクルド人」だという
シンゴさんは「クルド人はみんな国から毎月1人10万円をもらってるんですよね。『4人家族で40万円』だと、ネットで何人もの人が言っています」

これらは悪質なデマである
たしかに日本には、クルド人に限らず生活に困窮した難民申請者に対し、国が保護費を支給する制度がある
金額は、生活費が単身者で1日2400円、住居費は上限4万円
1人10万円の根拠はおそらくこのあたりにあるのだろう
しかし保護費を受給できるのは原則初回の難民申請者のみ
予算規模も諸外国に比べて乏しく、受給者数は難民申請者の1割に満たないとされる
また家族で受給したとしても、2人目以降は1日1600円(12歳未満は同1200円)なので、4人家族で40万円はありえない
しかしSNSなどに目を転じると、シンゴさんが言う通りの言説があふれかえっている
デマを真に受けた「困窮している日本人が哀れ」「クルド人は公金チューチュー」といった書き込みも目に付く
1923年の関東大震災の直後、根拠のないデマに踊らされた日本人がすさまじい数の朝鮮人や中国人を虐殺した惨事から、日本の社会は何も変わっていないのだと思うと、ぞっとした

認定NPO法人難民支援協会広報部
「日本は難民条約に加盟しています。難民申請者の生活保障含めて、難民の保護と受け入れは国の義務であり責務でもあります」
保護費受給者に批判の矛先を向けること自体が筋違い

企業によるドタキャンなど働き手ばかりがしわ寄せを食う仕組みは早急に改善すべきだが、学生や安定した本業のある人などはスキマバイトのアプリを利用すればいいと思っている
ただ生活に困窮した人がこのような不安定雇用に頼らざるを得ない環境は望ましいとはいいがたい
原則禁止されている日雇い派遣と同程度の規制は必要だろう
私がそう伝えると、シンゴさんから食い気味にこう返された
「スキマバイトができなくなるのは困ります。間違いなく路上生活になります」

ウーバーイーツの配達のように短時間の単発の仕事を請け負うことをギグワークという
スキマバイトは同じく単発、短時間契約が前提であるオンコール労働といえるだろう
社会保障の適用除外となりがちなこうした働かせ方に対して、アメリカやEU諸国では労働者の権利を守る方向での規制が進む
労働者自身による組織化も活発だ
シンゴさんの切実な反論に、私は返す言葉がなかった
一方でギグワークやオンコール労働を「好きな時間に好きなだけ働ける」と無批判に受け入れるだけの周回遅れの社会に未来はないとも思う・・・

で、そのタイミー
単発アルバイトの仲介アプリを手掛けるタイミーが7/26、東証グロース市場に上場した2018年のサービス開始から6年で時価総額(公開価格ベース)は約¥1380億に急成長

・・・ウーバーイーツ
最近、配達員が集まらないみたい
そりゃ、そうだ

今日は~
セッコク/Dendrobium moniliforme土佐姫
6月はじめ
開花
最近、調子が悪かった
仕立て直ししないと・・・


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