ネット上の一部で話題に・・・
2026/3/27学術誌Physical Review Lettersに掲載
中国・清華大学で行われた研究により、宇宙を終わらせうるとされる
今の安定状態に終末をもたらす終わりの種が量子トンネル効果で出現
そこから崩壊が広がっていく様子が示されています
さらに今の安定状態の様子によって崩壊が劇的に変わるという、予想を超えた現象も報告されました
宇宙は安定している——私たちは何となくそう思って暮らしています
物理法則は昨日と同じように今日も働き、明日もそうだろう、と
でも実は、宇宙はこれまでに何度も生まれ変わってきました
誕生直後の宇宙は、今とはまるで別世界
現在の宇宙を支配する4つの基本的な力——重力・電磁気力・強い力・弱い力——は、もとは1つにまとまっていたと考えられている
ところが宇宙が冷えるにつれ、力は次々と分離
まるで水蒸気が冷えて水になり、さらに冷えて氷に変わるように
宇宙もまた、温度が下がるたびにまったく別の姿に変わった
物理学ではこれを相転移と
ある転移では粒子が質量を獲得し
別の転移では、物質の基本粒子であるクォークが閉じ込められて陽子や中性子が生まれた
さらに冷えると原子が形成され、宇宙は初めて光が通る透明な空間になった
ここで注目してほしいのは
こうした衣替えが起きるたびに、宇宙のルールが根本から変わった
前の時代で見えていた粒子の振る舞いや力の現れ方が、次の時代には大きく変わった
そのたびに前の時代の安定は消え去った
さて、ここで素朴な疑問が
今の宇宙のルールは、本当に最終版なのか?
もし次の衣替えがあるとしたら——それはどうやって始まるのか?
この問いに答えるには、物理学でいう真空の意味を知る必要があり
物理の真空とは空っぽの空間ではなく
これ以上エネルギーを下げられない、いちばん安定した底のこと
安定な底にいるなら終末が訪れなさそうに思えますが、問題は底が1つとは限らないこと
以下の小さい文字は飛ばしても・・・
1977年、アメリカの理論物理学者シドニー・コールマン
私たちの宇宙は一番深い谷に落ち着いたのではなく、山に囲まれた浅い谷——偽の真空に留まっているだけかもしれない・・・
「でも山があるなら大丈夫では?」
実際、この山——エネルギーの壁——は途方もなく巨大で、人類がどれほどエネルギーをかき集めても正面から越えることはできない
私たちの周りにあるものが偽の真空であっても138億年にわたって安定してこられたのは、この壁のおかげ?
ところが量子の世界にはやっかいな抜け道が
エネルギーを一切使わずに、山を”すり抜けて”しまう現象
量子トンネル効果
そしてこのトンネルを抜けて、今の底よりもっと安定した底に到達すると
そこにごく小さな泡が生まれる
この泡の内部は、今の宇宙よりもさらに安定した本当の底
そして本当の底のほうが安定しているため
泡はまわりの空間を引きずり込みながら、光速に近い速さで膨張していく
トンネル効果で生じたたった1つの泡が、宇宙のどこかに生まれるだけで十分
宇宙のすべてが新しい底に向かって変わり始める
しかも新しい底での物理法則は今のものとは異なり
原子の構造も、力の強さも、すべてが書き換わりうる
当たり前として私たちが頼っているルールが、丸ごと消え去る可能性がある
これが真空崩壊、あるいは偽真空崩壊と呼ばれる
ですが偽真空崩壊はの魅力は恐ろしさだけではない
小さな量子の世界と大きな宇宙スケールの物理が交わる、非常に奥深い問題
というのも終末の種となる最初のトンネル効果は極小の量子現象ですが
その結果として生まれる泡の膨張は宇宙全体に及ぶ
そのため偽真空崩壊を研究することで
小さな世界と大きな世界をうまく結ぶヒントが得られると考えられている
ただ宇宙の終わりを実験でそのまま調べるのは当然ながら困難
そこで物理学者たちは、まったく別のものを使って、この終末を”見立てる”ことに
清華大学のYu-Xin Chao氏らのチームが実験の主役に選んだのは、ルビジウムという金属元素の原子
ただし、普通のルビジウム原子ではない
普通の原子の中心には原子核があり、そのまわりに存在する電子と一緒に、全体としてはぎゅっとコンパクトにまとまっている
ところがレーザーで大量のエネルギーを注ぎ込むと、風船を膨らませるように外側の電子がぐんぐん遠くへ押しやられ
原子全体が膨れ上がり、通常の数千倍もの大きさになる
この、ふわふわに膨らんだ状態の原子をリュードベリ原子と呼ぶ
このリュードベリ原子では、外側の電子はかろうじてぶら下がっているような状態
ほんのわずかな外力にも敏感に反応する
研究者にとっては、思いどおりに操りやすい、実験向きの原子となる
チームはこのリュードベリ原子を16個、輪の形に並べた
すると原子間の力によって、隣どうしが自然と逆の量子的な状態を取り、チェス盤の白黒のような規則正しい交互パターンが生まれる
この交互パターンには2通りの並べ方があり、通常はどちらもまったく同じエネルギーで安定
チームはここにレーザーを使い、片方のパターンをわずかにエネルギーの高い偽の底(浅い底)に、もう片方をエネルギーの低い本当の底に仕立てた
つまり、いつか崩壊しうる偽の安定と
その先にある本当の安定の両方を、原子16個の輪の上に埋め込んだ
こうして原子の輪は、崩壊の可能性を抱えた小さな宇宙になった
この小さな宇宙で何が起きたのか?
発見①:小さな宇宙は、理論が予想する形で崩れはじめた
チームはまず、偽の底に置かれたパターンに何が起きるかを観察
ただ先にも述べたように、偽の底と本当の底のあいだにはエネルギーの山がある
2種類ある量子的状態の一方からもう一方に変化するには、エネルギー的にタダではなく、普通なら、この山は越えられない
しかし量子の世界には、トンネルがある
実験では、そのトンネルが開く瞬間が捉えられた
リングの一部で、量子トンネル効果によって数個の原子が集団的に状態を変え、本当の底側のパターンを持つ小さな領域—真の真空の泡—が自然に生まれた
そしてこの泡が崩壊の起点になり、偽の底のパターンは時間とともに崩れ始めた
元の規則正しい配列は、まるでじわじわと溶けるように失われていった
そして崩壊の速さを詳しく測ると
偽の底と本当の底のエネルギー差が小さいほど崩壊がゆっくりになる
というきれいな関係が分かった
これは約50年前に量子場理論が予想した
偽真空崩壊らしい指数関数的な崩れ方によく似ている
しかも、原子16個のリングでも24個のリングでも
崩壊の速さはほぼ同じ値に
これは重要な手がかりに
もし崩壊がリング全体の
足並みを揃えた一斉イベントなら、参加する原子が多いほど足並みは揃いにくくなり
リングが大きいほど崩壊は遅くなるはず
でも、そうはならなかった
つまりこの崩壊は、リングの片隅でほんの数個の原子がトンネルを抜けるだけで始まる—リング全体の大きさとは無関係な、局所的な出来事だった
これはまさに、コールマンが宇宙について予想した姿と同じ
広大な宇宙のどこか一点に、たった1つの泡が生まれるだけで、終わりは始まる
リングの大きさが変わっても—あるいは宇宙の広さがどれほどであっても—そのことは変わらない
発見②:底の作り方で、終わりの運命が激変
次に研究者たちは、今の状態(偽真空状態)が終わり方に変化を与えるかを調べた
ある世界が終末を迎え別の世界になる場合、終わり方にも終わろうとする世界の特徴が出るかもしれないと考えた
そこでチームは、偽の底の作り方を変えたら崩壊がどう変わるかを調べた
一つ目は、パターンを機械的に交互に並べただけの、いわば急いで雑に組んだ偽の底
パッと見は偽の真空に見えますが、内部の量子的な構造は粗いまま
もう一つは、レーザーの強度をゆっくり上げながら、量子的なもつれを丁寧に作り込んだ時間をかけて精密に仕上げた偽の底
こちらは理論上の理想的な偽真空により忠実な状態
要するに、パッと見は同じだが中身の丁寧さが違う2つの模型を、まったく同じ条件のもとで崩壊させた
精密に作った偽の底は、数値シミュレーションでは量子場理論に対応する予測と4桁以上にわたって見事に一致
実験結果も、この精密な底のほうがより遅く、安定して崩れた
一方、雑に作った偽の底では、崩壊の途中で激しいブレが混入し
理論の予測から大きく外れた
特に偽の底と本当の底のエネルギー差が小さい領域—崩壊が微妙にゆっくり進むはずの状況でズレは顕著だった
なぜこんな違いが出るのか
精密に作った偽の底は、崩壊後のシステムから見て、ほぼ固有の状態に近い性質を持っている
余計な振動が抑えられ、純粋な崩壊だけが静かに進む
一方、雑に作った偽の底は、さまざまな状態が入り混じったゴチャ混ぜ
崩壊しようとする動きと、崩壊とは無関係な振動が同時に走るため、きれいな法則が見えなくなってしまう
もしこの小さな宇宙の教訓を私たちの宇宙に重ねるなら
私たちの宇宙が今どんな底にいるか—その状態次第で、終わりの姿は変わるのかもしれない
底の性質が少し違うだけで、崩壊が理論通りに進むか、予想外のぶれを伴うかが決まる
これは将来、偽真空崩壊をシミュレーションするすべてのチームにとって極めて重要な教えとなる
「理想的な準安定状態をきちんと準備すれば、崩壊率の指数的な抑制という普遍的な法則が成り立つ」
ことが、実験と数値解析を合わせて示された
発見③:泡を注文通りのサイズで作り分けた
研究チームは、崩壊の過程で生まれる真の真空の泡を
狙った大きさで選んで作ることに成功
なぜそんなことが可能なの?
今回の原子リングは、なめらかに連続した場ではなく、原子が飛び飛びに並んだ離散的な系
こうした系ではエネルギーの取りうる値も飛び飛びになるため
特定の条件がぴったり揃ったとき—物理学者が共鳴条件と呼ぶ状態—に、ちょうどその大きさの泡だけが優先的に生まれる
チームは実際に、長さ1、長さ2、長さ3の泡を、条件を変えながら選択的に生み出した
たとえば長さ2の共鳴条件に合わせると、そのサイズの泡が他を明らかに上回って生まれた
1個の原子を個別に検出できるリュードベリ原子プラットフォームの精度があったからこそ
どのサイズの泡がどれだけ生まれたかを、密度としてはっきり読み取れた
ここで注目すべきなのは、この共鳴的バブル核生成という現象が
なめらかに連続した量子場には存在しないという点
原子が飛び飛びに並んだ離散的な系にだけ現れる、特有の現象
従来の場の理論は、なめらかに連続した場を前提に構築されてきた
しかし、この小さな原子の輪は、その理論の枠組みだけでは捉えきれない現象を見せてくれた
つまりこの実験は、これまでの理論では開けなかった新しい扉を、一つ押し開いたことになる
私たちの宇宙が偽の底にいるかもしれないという話は、ただの空想ではない
2012年に発見されたヒッグス粒という素粒子の重さなどから計算すると
私たちの宇宙はちょうど安定と、危うい安定(準安定)の境目あたりにいる可能性が示されている
つまり、いま私たちが暮らしているこの宇宙の真空そのものが、本当の底ではないかもしれない
もっと深い底が存在し、いつかそこへ崩れ落ちる可能性がある—そんなことを、素粒子の実測データが示唆している
とはいえ、ひとつ救いが
仮にそうだとしても、崩壊までの時間は宇宙の今の年齢よりもはるかに長いと見積もられている
現在の標準模型にもとづく計算では、10の数百乗年
つまり、1のうしろにゼロが数百個も並ぶような途方もない数字に
宇宙の今の年齢は約138億年だから、宇宙がこれから何度生まれ変わっても足りないほど
さらに、
今回のような閉じた系—外部とエネルギーをやりとりしない系—では
生まれた泡は無限に膨張することができなかった
エネルギーが保存されるために、泡の暴走が食い止められた
光速で宇宙全体を飲み込む、という最悪のシナリオは、少なくともこの小さな宇宙の中では実現しなかった
しかし同時に、底の作り方で終わりの姿が変わるという発見は
宇宙の運命を正しく予測するには—あくまで実験からの推測ですが—
今の宇宙が、どんな状態にいるかを正確に知る必要がある、と
それは、まだ十分には分かっていない
この問いに挑んでいるのが清華大学のチームだけではない
論文の末尾には、ドイツ・テュービンゲン大学のクリスティアン・グロス教授のグループが
2次元のリュードベリ原子配列を使った同様の研究を同時期に進めていたことが記されています
世界の複数のチームが、同じ壮大な問いに異なる角度から挑んでいる
今後、研究チームはより高い次元の系や、複雑な格子構造への拡張を目指しています
今回の実験は1次元の輪でしたが、2次元や3次元の配列に進めば、より豊かな場のふるまいを模倣できるかも
さらに、偽の底と本当の底が複数存在するような、より入り組んだエネルギー地形の研究も視野に入っている
宇宙はこれまで何度も衣替えしそのたびに、前の時代の安定は跡形もなく消え去った。
次の衣替えがあるのかどうか、あるとすれば、それはどんな姿をしているのか。
その答えに近づくための手がかりは、もしかすると、こうした小さな原子の輪の上に、すでに現れ始めているのかもしれません。
・・・シロウトとしては
理論がどうこう よりも
宇宙を崩壊させる・・・
かもしれない実験をしちゃった・・・って
こわい~
もし
誰かがエネルギーを注ぎ込んだら・・・
今日も~
キクザキイチゲ/Anemone pseudoaltaica大輪濃色種
日当たりがイイとこ
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