「鉄筋コンクリート造の耐用年数は?」と聞かれたら多くの人は47年あるいは50年と答えるだろう
役所関係の人なら70年という答えが出てくるかもしれない
実は3つとも間違っている
鉄筋コンクリート造(以下RC造)は物理的には100年単位でもつ
2019年から2026年にかけて一般財団法人 日本建築センター(The Building Center of Japan、以下BCJ)が耐用年数を評価した488棟の既存RC造建築物のうち
322棟(65.9%)の残存耐用年数は100年超だった
評価した建物の平均築年数は52.7年なので、建てられた時からの耐用年数は150年以上
しかも100年超と数字を丸めているが
計算上はあと400〜500年程度もつという評価が出たものもある
世の中でよく言われている耐用年数と実際の物理的な耐用年数には非常に大きな乖離がある
BCJ参与・既存建築物技術審査部長の元木周二さんと神戸芸術工科大学学長の松村秀一さん
最初に47年、50年、70年という多くの人がRC造の耐用年数と考えている数字について
47年、50年は国税庁の主な減価償却資産の耐用年数表によるもの
一般的に法定耐用年数と呼ばれる
47年は住宅、50年はオフィスのための年限
これを雑に説明すると、事業者が購入後、47年間あるいは50年間は購入した額を毎年一定割合で必要経費として落とせるという意味
それを過ぎると経費には算入できなくなる
だが、経費で落とせなくなるだけで法定耐用年数を超過したら使いものにならないという意味ではない
もうひとつの70年は公営住宅法施行令などに規定されている公共住宅の耐用年限7このところ、たまに団地が売却されているのは耐用年限が過ぎたから使用中止という動きだ
だが、こちらも法で定められた年限が過ぎたら物理的に使えなくなる、倒壊の危険があるわけではない
たとえば静岡県静岡市にある日本最古のRC造団地のひとつ、静岡市営羽衣団地
1949年3月に竣工、2026年9月時点では築77年を超えているが、現在も現役
築年数の問題から一時建て替えを考えたこともあったそうだが、他地域の同年代団地を調査する大学関係者から問い合わせを受けるなど最高齢団地として注目を集めた
それを受けて2025年1月に耐用年数評価のための調査をした結果
コンクリート内部は至って健全
コンクリートの圧縮強度も十二分にあることが分かり、継続使用されることになった
この調査を行ったのが冒頭に挙げたBCJ
BCJは新しく開発された建築工法や設備、材料などに関する技術的評価を行う専門機関
建築関連の情報センターの役割を担う存在として1965年に活動を開始
2025年8月に設立60周年を迎えた歴史ある建築関係の専門家集団
耐用年数評価が求められた背景には公共建築物の長寿命化を必要とする現実がある
校舎や庁舎、公営住宅などの公共建築物の多くは戦後の高度経済成長期に集中的に建設された
当然、老朽化もほぼ同じタイミングで起きる
だが、それらすべての公共施設を解体、建て替える銭は人口、経済が縮小する日本にはない
そこで政府のインフラ老朽化対策連絡会議は2013年に
インフラ長寿命化基本計画を策定
2014年には総務省が全国の自治体に対し、学校や庁舎などの公共施設、道路などのインフラを一元的に管理する公共施設等総合管理計画の策定を要請
これを受けて各自治体で長寿命化計画の作成が本格化
そこで問題となったのは既存のRC造がいつまで使えるのかということ
あと何年もつかが分からなければ、これからさらに何年使います、それでも安全ですという計画は立てられない
ところが、それが分からない
それまでの日本ではRC造でも築50〜60年で建て替えられることが多かったため、物理的にいつまでもつかを知る必要がなかった
法定耐用年数を物理的な耐用年数と言い換えても文句を言う人が少なかったのはそのため
で、実際の劣化状況の調査を基に既存RC造の新たな評価方法を作るしかない
それがBCJが過去に評価した建物のデータや評価結果を分析
2024年末に特許を取得したコンクリートの中性化に着目した耐用年数の予測法
元木さん
「RC造のもっとも一般的、支配的な劣化要因はコンクリートの中性化
打設時には強アルカリだったコンクリートに大気中の二酸化炭素が侵入することで中性化が進行して鉄筋に到達
そこに水、酸素が供給されることで鉄筋が腐食し、腐食が外壁等の主要構造部に広範囲に広がることで構造耐力が低下
そこで評価ではコンクリートの外壁等から円筒形のサンプル(コア)を採取し、中
性化深さを測定
それらの分布の上位5%に相当する中性化速度係数を用いて
コンクリートの法定かぶり厚さ30㎜に達する年数を調査時点から起算して求めた年数を耐用年数として評価することにしました」
2019年5月から評価業務を開始
2026年3月までに488棟の評価を行い、そのうちの65.9%が100年超という結果が出た
さらに評価の結果、外壁仕上げにモルタルを施工した建物は80.3%が100年超もつという意外な発見も
「施工精度が低かった時代にはコンクリート表面の凸凹を解消するためにモルタルを20〜30㎜塗って仕上げていました
モルタルは砂とセメント、水でできており、アルカリ性が強い
そのためモルタルがコンクリートへの中性化を抑制してきたと考えられます
ところが昭和50年代以降はモルタルはあまり塗られなくなり、コンクリートに直接、塗料で仕上げることが一般化し
中性化抑制は塗料のみに依存することになりました」
結果として施工精度の低さをカバーするためのモルタル仕上げが建物を守ってきた
一方、中性化に基づく耐用年数評価ができないとした結果も約1割ある
それらの大半はすでに中性化がかなり進行しており、残存耐用年数の推計が正の値にならないものだった
(危険な建物)
海砂を洗わずに生コンに投入、コンクリート内に大量に塩化物イオンが存在するケース、かぶり厚さ(*1)の不足、豆板(*2)や加水などの施工不良が多数あるケースなど耐久性に問題がある建物も一定数ある
(*1)かぶり厚さ:内部鉄筋を保護するためのコンクリートの厚さ、法定では30㎜
(*2)豆板:打設時に砂利が偏って表面に露出、すき間や空洞が多くなってしまった施工不良
残存耐用年数が評価上最短の20年未満という建物も35棟あったが、この評価が出たら20年後に建物が使えなくなるというわけではない
「コンクリートの中性化が鉄筋に到達してもそこに水と酸素が供給されなければ鉄は錆びません
建物間仕切り壁などは非腐食環境とされますが、これは中性化が鉄筋に到達しても降雨等による水の供給がないためです
また、仮に外壁であっても外側が鋼板などで覆われていて雨水がコンクリートに浸透しなければ問題にはなりません
数年前に築90年になっていた小学校の耐用年数評価をしましたが、外壁の中性化は進んでいたものの
コンクリートの含水率は2%台と低く、鉄筋は錆びていなかった
そこで外壁の防水性を高めておけば長期に使用できるという結論を出したこともあります」
コンクリートの中性化が劣化事象であることはよく知られているが
中性化が鉄筋に到達した=もうダメではなく
そこから鉄筋腐食が進行するには水と酸素と時間が必要で、しかも水と酸素の供給はメンテナンスなどで止めることができる
適切に手を入れればコンクリートは半永久的にもつ
もともとが公共施設長寿命化に端を発しているだけに、評価した建物の8割以上は公共建築物
横浜市や坂戸市、さらには滋賀県や足立区、渋谷区のように耐用年数評価を自治体の計画に盛り込んだ例も出てきている
だが民間での利用はまだ少ない
「国交省の調査では築40年超のマンションはすでに100万戸超あり、今後も急増する見込み
一方で建て替えはなかなか進まない
となるとできるだけ長期に使い続ける
最終的には解体費用を積み立てて自力で解体するのが現実的と思います
長期に使い続けるためには適切な維持保存だけでなく、特に旧耐震なら耐震診断、必要に応じた耐震改修も必須
ところが管理組合が耐震診断を考えても住民から耐用年数が近い
あるいは過ぎているからやっても無駄という反対意見が出ることが多いとか
これまで分譲マンションの評価実績は数件ありますが、管理組合が全額負担したのは1例だけ
そのマンションは築35年。3回目の大規模修繕に加えて、各住戸排水管の漏水が多発、受水槽の耐震化も必要でした
その3大工事を同時実施すると修繕積立金が不足
居住者の高齢化が進んでおり、借り入れを避けるために修繕時期をずらして行うことができないか
その合意形成のために建物が何年もつかを知りたいということが評価依頼の背景でした
幸い残存耐用年数が100年超との評価だったので、大工事の時期を分散させ
借り入れなしで実施できるとのことでした」
高経年マンションのこれからを考えるなら、建物の物理的な寿命を知ることは必須だろう
それが分かれば安心して長期計画が立てられるようになる
そうなれば耐震化を含め、改修により超長期に使用されるマンションも出てくるのではなかろうか
評価を積み重ねてきたことで分かった既存RC造の耐用年数の長さについて、松村さん
「築50年は大谷翔平」
私たちは犬、猫などの年齢を人間にしたら何歳という言い方をするが
建物の築年を人間の年齢に換算した場合、築50年はまだまだ若い
ホントのところ、築50年は大谷選手どころか、その子くらいかもしれない
それだけもつなら再開発などによる建て替えは不要と考える人もいるだろうが、それはまた違う話だと松村さん
「RC造の躯体は半永久的にもつとしても設備は100年もちません
そして今のオフィスビルは設備の割合が非常に高い
建物が全体で100円するとしたら、そのうち、設備は40〜50円
コンクリートは15〜20円という感じ
それを建て替えることには経済的な意味があり得るでしょう
ところが古いビルでは設備が少なく、100円のうちの40円以下
学校などはほとんど設備がないので、躯体に問題がないのであれば使い続けるほうが合理的です
このように建物を使い続けるのがいいか、更新するのがいいかは建物そのものの物理的な寿命以外にも
建物の用途、使い方、経済的な合理性その他の要素も精査、検討すべきもの
ところが現状は建物が老朽化したという曖昧な一言で片づけようとする
そこに問題があり、ムダや反対も生まれているのではないでしょうか」
実際、建物自体には問題がなくても設備や間取り、使い勝手、立地が時代と合わなくなること
使い続けるためのコストが経済的に合わなくなることは十分あり得る
建物が長持ちするとしても全てが使い続けられるというわけではない
だが少なくとも物理的には相当長くもつ可能性があるということを知っておけば、判断は変わってくるはずである
また、新築時にはこれだけもつことを知って作っていただきたいもの
初期のマンションは給排水管(しかも鉄! )をコンクリートに埋め込んでいた
そのため給排水管交換には床あるいは天井をはつる必要があり、大変な費用と手間がかかった
それなら建て替えたほうがいいとなったのも当然だが、これからは安易に建て替えられる時代ではない
とすると新築時にはこれから最低でも100年後の暮らしを想定、維持保全やリノベ費用を抑制できるようフレキシブルに対応できる建物をつくる必要があろう
建築家やデベロッパーの皆さんには長期的な展望をもって建てていただきたい
・・・問題は鉄骨造
軽量化が必要なタワマンとか
個人住宅もRC造なら100年超もつ
ただ設計段階から設備などをコンクリートの中に入れなければ
終の棲家と言いながら50年くらいの木造・鉄骨よりイイかも
適切なケアをしていれば、築50年でも建物自体に値がつくように・・・
今日も~
ファレノプシス モルディブ/Phalaenopsis Maldives
切り花にして1ヶ月くらい
保つわ~